トヨタとJAXAの宇宙探査、「月」を選んだ背景宇宙ビジネスの新潮流(2/3 ページ)

» 2019年03月22日 06時15分 公開

自動車技術を宇宙探査に生かす

 1つ目、宇宙探査への異業種関連技術の利活用という意味では、今回のように自動車メーカーが宇宙探査ロボットの開発を支援するという前例がある。民間主体での月面無人探査を目指すベンチャー企業の独PTScientistsをこれまで支援してきた独自動車メーカーのアウディの協業だ。

 PTScientistsは18年に幕を下ろした月面無人探査レース「Google Lunar XPRIZE」への参戦を機に誕生した企業だ。筆者が主催する宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE」にも15年に登壇してもらったことがあるが、同社では月面まで100kgのペイロード(荷物)を輸送することが可能な月面着陸船「ALINA」と月面を走行可能なローバーの双方の開発を進めている。

月面着陸船「ALINA」(出典:PTScientistsサイト) 月面着陸船「ALINA」(出典:PTScientistsサイト

 同チームを15年より支援を行っているのがアウディだ。アウディは独自の四輪駆動技術「Quattro(クワトロ)」と電動駆動技術「e-tron(イートロン)」などが著名であるが、両社による協業の下、こうした技術を活用した約30kg相当の「Audi Lunar Quattro」と呼ばれる小型ローバーの開発を進めているのだ。

官民連携もキーワード

 また官民連携も時代の流れだ。民間企業の活躍は、国際宇宙ステーションまでの物資輸送を行っている米SpaceXなど地球近傍で話題になることが多い。他方で宇宙探査分野では、政府が目標設定を行い、予算獲得と技術開発を主導し、成果を上げてきたプロジェクトが多い(※参考までに宇宙ステーションは高度400kmにあるが、月は38万km離れており、距離は全く異なる)。

 しかしながら、昨今は宇宙探査分野において変化がある。昨年筆者が参加した米国の国際会議の場においても、宇宙開発において今後重要になってくるパートナーシップとして「国際パートナーシップ」とともに言及されていたのが「官民パートナーシップ」であり、民間企業との協業に注目が集まっている。

 NASA(米航空宇宙局)は28年までに月面に米国宇宙飛行士を送り込むことを計画している。さらに民間企業とのパートナーシップで有人月着陸システムを設計・開発していく意向を示しており、今年2月にはそのための提案募集を行っている。今回の発表では「チームジャパン」というキーワードが掲げられたが、JAXAとトヨタの連携は官民パートナーシップの好例と言えるのではないか。

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