現在、創業店はないが復刻店の「串かつ・やきとり やまちゃん」で、往年の雰囲気が再現されている。カウンターと丸パイプの椅子を並べた屋台のような雰囲気で、会社帰りにサラリーマンがふらっと気軽に立ち寄れる店だ。
山本氏が店をオープンして2年ほどしたある日、本来なら「ハイ! やまちゃんです」と言わなければならないところ、アルバイト店員が冗談で「ハイ! 世界のやまちゃんです」「ハイ! 宇宙のやまちゃんです」と、軽いノリで電話を取っていた。それを横で聞いていた山本氏は、怒るどころかいたく感激。
「世界のやまちゃんって夢があるね」と、店名の変更を決意した。世界の山ちゃんの屋号はこうして、瓢箪(ひょうたん)から駒というか、偶然に生まれたのだ。
その頃の名古屋では「風来坊」によって開発された手羽先が人気を博し、多くの店でメニューとして出すようになってきていた。やまちゃんでも、今のようにメインではなかったが、手羽先も販売していた。
それまで、手羽先はスープを取るのに使うくらいで、基本的には使い道のない部位だった。風来坊は手羽先を甘めに味付けしたが、やまちゃんはこしょうをたっぷり効かせた辛口で差別化した。当時、スナック菓子「カラムーチョ」などがヒットしており、激辛ブームが到来していた。これは、やまちゃんには追い風だった。
ある日、この店の手羽先を気に入っていたお客の1人が、「ここの手羽先はおいしくてすぐなくなっちゃうね。まるで幻なんだよな」と、酔ってふと漏らした言葉に、山本氏はいたく感激。そのお客の許諾を得たうえで、「やみつきになる」という意味を込めて手羽先の商品名を幻の手羽先へと変更した。
この命名により、激辛ブームの後押しもあって、単なる手羽先からメイン商品へと羽ばたいていくのである。
どこにでもあるような小さな飲み屋は、幻の手羽先を販売する世界の山ちゃんという、キャッチーで専門的な店にいつしか変貌し、立派な「変な店」になった。
そして、立派な変な店になったからこそ、チェーンとして広がった。
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