3月28日に公表された運輸安全委員会の報告書によると、岡山駅から乗車して「異変」を調べた車両保守担当と運用指令員はこんなやりとりをしている。
車両保守担当: 臭いはあんまりしない。音が激しい。自分の見解としては床下点検をしたいけど余裕はないよね。
運用指令員: (走行に)支障はあるんですか。
車両保守担当: そこまではいかないと思うんだけど、(床下を)見ていないので現象が分からない。
さらに、新神戸駅で降車して車両を確認した後もこんなやりとりが記録されている。
運用指令員: 何回も聞いていると思うが、今のところ走行に支障があるという感じではないということですよね。
車両保守担当: 判断はできかねるんで、走行に異常はないとは言い切れない。通常とは違う状態であることは間違いないと思う。
この両者の間に流れるビミョーな「空気」がお分かりいただけただろうか。当初、保守担当側は「床下点検」をしたい、という意志をチラリと見せたが、そこまでゴリゴリ押さず、ダイヤを守らなくてはいけないという事情への「配慮」も見せている。要は、オレはやりたいけど、そっち的にはどうなの、と運用指令にボールを投げているのだ。
しかし、これを運用指令はスルーする。逆に「で、支障なく走れるの?」とまったく違うボールを投げ返してきたのだ。というと、何やら運用指令を批判しているように聞こえるかもしれないが、彼らの職務を考えれば、これも当然の反応だ。
東海道新幹線はこの年の8月に、過去最多となる1日433本を走らせた。1列車平均遅延時間は2013年度で54秒。11年度にいたっては、なんと36秒だという。これほど多くの電車を、きちんと正確に走らせることが、日本の新幹線の「誇り」であるわけだが、一方で超過密ダイヤゆえ、わずか1本でもダイヤが乱れれば、ドミノ倒しのように全体の乱れにつながる。
日本の出張族は基本、新幹線は定時に到着するものと思って商談などのスケジュールを組む。新幹線を止めれば、ウン十万という人に影響が出てしまうのだ。その「重責」を担う運用指令員としては、まずは「定時運行」をキープできるか否かが最大の関心事になるのも無理はないのだ。
ただ、保守担当側は困惑するだろう。判断を仰いだと思ったら逆に判断を求められるからだ。こういうチグハグなやりとりが続く中で問題が先送りされ、台車の亀裂が1センチ、また1センチと広がっていったというわけだ。
もうお分かりだろう。これが「空気を読む人」が「危機」に向かない理由である。
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