という話をすると、「空気を読む人」だっていざとなれば、それくらいの進言はちゃんとできるぞ、とムキになって反論をする人も多いだろうが、残念ながら、人間というものは長年染み付いた習慣をそう簡単に変えることできないのだ。
基本的に、優秀な組織人というのは、子どものときからウン十年と「空気を読む」ことを続けてきた人が多い。組織の中でうまくたち回るということと、「空気を読む」というのはほぼ同義なのだ。
教師や親が考える「いい子」の姿を忖度して、行動する。試験出題者の意図を瞬時に読み解いて、望むような答えを出す。社会人になればなったで、上司や客の考えを先回りして、あちらが想定する以上の「結果」を出す者が、「あいつはできる」という評価を得る。
こういう成功体験を骨の髄まで叩き込まれている人が、ある日を境に将棋のコマのようにパタンと「空気を読まない人」に変われるわけがないのだ。
この厳しい現実は昨年から、カルロス・ゴーン氏の「不正」を嬉しそうにマスコミにリークしている「日産関係者」なる人たちをイメージすれば、ご理解いただけるだろう。マスコミにとって彼らは大切な情報源なので、誰もツッコミは入れないが、「なぜそんな大事なことをこれまで黙っていたの?」という大きな問題がある。
ここまで事細かに「不正」の証拠をつかんでいるのなら、社内で声をあげ、正規のプロセスでゴーン氏を糾弾すればいい。しかし、「日産関係者」たちはそうはせず、捜査機関とマスコミにリークした。「独裁者」のまわりで長いこと「空気」を読んできたのでそのクセが抜けず、今度は日産社内で盛り上がった「ゴーン追放」の「空気」を忖度(そんたく)して、社内のパワーゲームに利用している、というのは容易に想像できよう。
組織の中で長いこと「空気を読む人」として立ち回っていると、不正を不正として追及するという当たり前のこともできなくなってしまう、象徴的なケースだ。こういう組織の暴走を阻むために、「空気を読まない人」がいるのだ。皆さんの会社でも社内で疎まれている「空気を読まない人」の新しい人材活用法を考えてみてはいかがだろうか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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