入社して2〜3カ月たったころ、石田さんに“接客”について考えさせる「センセーショナルな出会い」があった。社内でもエース級の職人が、サービスレベル向上のために各店舗を回っており、石田さんが配属された店にもやってきたのだ。
そこで目の当たりにした接客は「お客さまとの距離の詰め方が絶妙だった」。かばんを修理に持ってきた客に対して、何気ない会話で普段の使い方について情報を引き出し、使い方のアドバイスを交えながら、押し付ける様子もなく自然と修理内容を決めていった。「気が付くと会話がふくらんでいる感じでした。お客さまも押し付けられている感じがなく、気持ちよく修理を依頼されていました」
その姿に刺激を受けて以来、石田さんも“距離の詰め方”を意識して接客に励んでいる。まず大事なのは観察だ。修理したい靴を今履いているのか、あるいは、袋に入れて持ってきているのか。それによって、提案内容は変わってくる。いったん預けてもらえるなら、提案の幅も広がる。短い時間で相手を観察し、その上で会話によって要望を引き出すことを心掛けている。
さらに、“おもてなし”を意識するのは、カウンターでの接客時だけではない。技術面でも、期待される以上のサービスを目指している。依頼された部分をきれいに仕上げるだけでは満足しない。ヒール交換などの靴修理であれば、少し革がはがれている部分を見つけたら貼り直す。汚れている部分があればきれいに磨く。「トータルで修理をして、喜ばない方はいないと思っています。できることは全てやって、最大限のパフォーマンスを心掛けています」
なぜそこまでするのか。それは、高い水準のサービスを期待して来店する人が多いと考えているからだ。「料金設定は決して安いわけではありません。一定の金額を払っていただく以上、サービスで他社に負けてはいけない。臨機応変に対応するので、マニュアルにできない部分ですね」
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