――経営者として、「売れる写真集を作ろう」という判断をすることはないのですか。
いま作っている本が売りやすいのか売りにくいのかは分かります。でも、私の場合は「売れるかも!」と思いながら出版するとなぜか失敗するのです。テーマや作家で売れ筋だと狙って作ってもさほどの成果を生みません。そういうことが苦手なのだと思います。
無名の新人を世に出していることがうちの特色のひとつです。私には「この人の作品はぜひ写真集にして出したい」という衝動的な思いに駆られることがままあります。年に1人か2人は出会いますね。「それを出すまでは倒産できない」という気持ちが唯一のモチベーションになっています。
私は普段はぼんやり生きていて、ビールを飲んでいるときが一番の幸せのような人間です。そんな私のわずかな生命力は「この人の本を出す」ことにしか向かないのです。
――写真集は他の本に比べると高価ですよね。値付けはどのように決めているのでしょうか。
うちの本は安めだと業界では言われています。「価格破壊だ」なんて言われたこともありますから。できるだけ買いやすい値段にしたいと思っていますが、デザインや紙、印刷には妥協できません。原価率が50%を超えてしまうこともざらにあります。
5000円の写真集は高いといわれてしまいますが、同じ金額をディナーや洋服に払う方は多いでしょう。部数をたくさん刷れるわけではない写真集の値段をどう設定するのかは、いつも悩むところです。
――出版業界は長く低迷しています。赤々舎の経営状況はどうなのでしょうか。
うちはずっと低めをウロウロしているので景気の上下はあまり関係がありません(笑)。でも、書店が減り、写真集のコーナーも縮小しているので、その影響は受けています。
私たちが売り先を広げていけるとしたら海外、特にアジアでしょう。現時点でも売り上げの半分は海外が占めています。
写真の展示会が中心の欧米に対して、日本は写真集をこだわって作ることで世界に知られています。歴史的にも、スタイルの豊かさにも特色があります。
うちの写真集は「濃い」とか「重い」と言われることがよくあります。淡い世界ではなく、混とんとしていて、存在の怖さや重さがある切実な世界です。見たくない人は見たくない写真集でしょう。「買いたいけれど家族のいる自宅には置けない」といわれることもあります。写真の物語性、抽象性が読み取れる濃厚な写真集が海外の人たちをひきつけている。面白い現象だと思います。
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