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デジタル化は漫画家のワークスタイルをどう変えたか――連載作家が語る漫画制作の今「AIの遺電子」作者に聞く(2/4 ページ)

» 2019年04月29日 05時00分 公開
[山田胡瓜ITmedia]

クラウドサービスが漫画制作に大活躍

 円滑なテレワークを実現するためには、Webサービスの活用が欠かせません。例えば私は、アシスタントと原稿データを共有するのにクラウドストレージサービスの「Dropbox」を使っています。

 Dropboxが素晴らしいのは、基本無料で使える上に、ファイルのバージョン履歴機能を持っていることです。この機能により、アシスタントが誤ってファイルを消したり更新してしまったりしても、一定期間内であれば昔のファイルを復活させられます。

Dropboxで原稿ファイルを同期し、複数人のスタッフが原稿を更新していきます

 また、担当編集者との原稿や書類のやりとりにもDropboxを使っています。編集者と自分だけが開ける共有フォルダを作り、そこに完成原稿や書店さん向けイラストカードといった素材をアップします。編集者にも、表紙のゲラや各種資料といった共有すべき素材をアップしてもらっています。

 漫画編集者というと、「締め切りギリギリの原稿を受け取るために漫画家の仕事場に居座る」みたいな姿を思い描く人もいると思いますが、私自身はボタン1つで編集者と原稿をやりとりできる状況です。

 クラウドを活用すると、原稿にミスがあった場合も対応が容易です。入稿前であれば、Dropbox上にある原稿データを差し替えるだけで修正が済みます。紙の原稿の場合は、原稿そのものを編集者が持っていってしまうため、後からの修正は何かと不便がでてきます。「出版社が原稿を紛失する」といったアクシデントもごくまれに起きるそうですが、デジタル原稿の場合はオリジナルデータを作家自身が保管しているため、問題になりません。

チャットアプリで離れた場所のアシスタントと意思疎通

 テレワークにおいてはコミュニケーションのしづらさが課題になります。離れた場所にいるスタッフと絵のイメージを共有したり、修正希望を正確に伝えたりするのは、「横で説明する」場合と比較すれば少し苦労が増しますが、意外と何とかなります。私は普段、「Discord」というチャットアプリを使ってアシスタントと意思疎通を図っています。

Discordのダウンロードページ。「ゲーマー向けボイス&テキストチャットアプリ」と説明がありますが、筆者はもっぱら漫画制作に使っています

 Discordはもともとゲーマー向けに開発されたチャットアプリです。複数人でのテキストチャット、ボイスチャットが気軽に利用できるだけでなく、さまざまな拡張機能に対応しているようですが、私はもっぱらテキストチャットを利用しています。ボイスチャットも時々するのですが、作家がアシスタントを監視しているかのような緊張感を生む印象があり、常時接続はしていません。テキストチャットだと履歴が残るため、仕事の振り返りにも役立ちます。

 便利なのがテキストチャットの読み上げ機能です。テキストは本来「読む」必要があるため、投稿があるたびに原稿から目を外さなければいけないのですが、読み上げ機能を使うと、話しかけられるのと同じ感覚になります。単なる報告は耳で聞くだけにして、返事をすべきときだけキーボードをたたくといった感じで、仕事をしています。そのため、私の仕事場にはアシスタントの声のかわりに、チャットを読み上げる合成音声がいつも響いています。冷静に考えると、異様な雰囲気です。

 ちなみに、アシスタントがITやPCや漫画制作ソフトに詳しくない場合は、最初にいろいろと苦労があります。ソフトの使い方をテキストや音声だけで説明するのは大変です。こういうときは、Skypeの画面共有機能を使っています。

 この他、カレンダー共有サービスのTimeTreeを利用して、仕事のスケジュールや各種の予定をアシスタントや担当編集者で共有しています。スタッフそれぞれ締め切りや作業実績や休みの予定を書き込めるので、効率的に状況が把握できて便利です。

 余談ですが、昔はTimeTreeではなく無料グループウェアであるサイボウズLiveを使っていました。このサービスは残念ながらクローズしてしまいましたが、昨今は基本無料で利用できるクラウドサービスやコラボレーションツールが豊富にあります。こうしたサービスを積極的に活用することで、個人事業主の漫画家が、コストをかけることなくデジタル化のメリットを享受し、離れたスタッフや担当編集者とのチームワークを実現できる世の中になっているのです。

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