懐かしい音と匂いを楽しむ「SL」ハシゴ旅 「もおか号」「SL大樹」を巡る1日杉山淳一の「週刊鉄道経済」GW特別編(5/6 ページ)

» 2019年05月03日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

SL大樹「ドリームカー」連結初日

 東武鉄道の「SL大樹」は17年8月に運行を開始した。今では日光・鬼怒川エリアの楽しい乗りものとして定着した感がある。週末を中心に1日3往復。距離が短く、乗車時間も短いけれど、それを逆手にとって運行回数を増やした。座席指定料金は750円。距離が短くて乗車券では稼げないせいか、他の路線のSL列車より、やや高めの設定だ。

photo 下今市駅に「SL大樹」が入線。この日は牧場とタイアップしたヘッドマークがつき、乗客にラスクやスイートポテトが振る舞われた

 「SL大樹」の運行当初は機関車「C11形 207号機」でトラブルが頻発した。この機関車はJR北海道からの借り物で、彼の地では観光列車として活躍、いや、それなりに酷使されていたようだ。代打でディーゼル機関車による「DL大樹」を運行したところ、これはこれでディーゼル機関車ファンに歓迎された。そこで、SLの整備期間を確保するために、「DL大樹」を運行スケジュールに組み込んだ。

 しかし、東武鉄道としては「SL大樹」を多く運行したい。そこで、SL2台体制を目指し、まずは北海道で有志が保管していた蒸気機関車を購入する。もっとも、屋内保管されていたとはいえ、すぐに走行できる状態ではない。復元には億単位の費用がかかる。そんなときに、真岡鐵道が運行する2台の蒸気機関車のうち、C11形を売却することになった。

 その入札条件が奮っている。「栃木県内で運行すること」「真岡鐵道の残り1台が故障したときは貸し出しに応じること」「最低入札価格は1億2000万円」まさに「東武鉄道さん買ってください」だ。そして東武鉄道が応じた。先に購入した2台目は復元におカネと時間がかかるから、すぐには走らない。真岡鐵道のSLを得ればすぐに使える。しかも、売却に当たり、真岡鐵道側で全般検査を実施してくれる。中古車で言えば「車検付き」。東武鉄道にとっても良い条件だった。

 東武鉄道にとっては、3台の蒸気機関車の維持、うち1台はスクラップ同然の姿から復元する。かなり大きな負担になる。しかし、真岡鐵道とは事情が違う。東武鉄道の「SL大樹」に乗りに来る人は、ほとんどが東京方面から特急列車など東武鉄道の電車に乗ってきてくれる。日光や鬼怒川沿線のホテルなど、東武鉄道グループの企業にとっても、SLの走る街は誘客効果がある。温泉客をさらに1泊、引き留められるかもしれない。

 「もおか号」が地域に貢献する経済効果は見えにくい。しかし、「SL大樹」は日光エリアの東武グループ全体に相乗効果を与える。同じグループ内だから結果も分かりやすい。

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