懐かしい音と匂いを楽しむ「SL」ハシゴ旅 「もおか号」「SL大樹」を巡る1日杉山淳一の「週刊鉄道経済」GW特別編(2/6 ページ)

» 2019年05月03日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 「SLキューロク館」は真岡市が「SLの走るまち」としての魅力を活用する目的で作られた。キューロクとは、ここに保存されている蒸気機関車「9600形」の愛称だ。クンロクと言う人もいるけれど、麻雀の点数みたいでよろしくない。キューロクが正解だろう。

photo 真岡駅に到着。蒸気機関車型の建物が3つ。左から、駅舎、D51形保存屋根、9600形車庫(キューロク館)
photo 真岡駅舎。1997年に蒸気機関車型の建物になった

 この9600形は以前、真岡市内の公園で展示されていた。これに目を付けて、真岡駅前に移設。観光拠点を作った。それだけではなく、静岡市の公園に展示されていたD51形、デゴイチもある。静岡市が老朽化のため解体しようとしたところ、真岡市が引き取りに名乗りを上げたという。国鉄時代の旧型客車スハフ44形は、引退した青函連絡船羊蹄丸の船内で展示されていた車両だ。羊蹄丸は東京湾の船の科学館で展示されていたけれど、老朽化のため解体されてしまった。その中にあった客車がスハフ44形。ここにいたか。

 屋外にも貨車、車掌車、気動車があり、見応えのある鉄道博物館だ。どれも手入れが行き届いており保存状態がいい。特に9600形とスハフ44形は屋内、D51形も屋根の下にあって、大切にされているようだ。

photo 9600形機関車。1920年製。北海道で活躍した。使用線区の視界状況に合わせて運転席が右側にある珍しい機体
photo D51形。静岡県の公園に展示後、解体される予定だった。真岡市が引き取り、圧縮空気で自力走行できるまで整備された

 そしてすごいところは「9600形とD51形が動く」。圧縮空気を使ってピストンを動かし、短距離ながら自力走行ができる。石炭をくべて、というわけではないから、もくもくと煙を出すわけではないし、長距離走行には向かない。車庫から車体全体が姿を現す程度の距離だ。圧縮空気で無理やり動かすなんて、まやかしじゃないか、と思っていたけれど、実際に見てみると、あの巨体がずしりと動く様子は迫力がある。

 D51形は体験運転ができるという。9600形は展示運転だけど、車掌車を連結して往復する。この車掌車に1回300円で乗車できる。車掌車に行ってみたら「1000円で機関車の助手席に乗れますよ」とのこと。すぐに建物に引き返して乗車手続き。先着1組、4人まで乗れる。機関車の運転台を見学する機会は何度もあったけれど、動く機関車の運転台に乗るのは初体験。前方の窓は小さくて運転士さんの苦労を感じた。しかし、高い位置から側方の窓の眺めは良い。

 助手席に乗ると汽笛を鳴らす役目を与えられる。運転士さんの指示に従い、動き出す時の合図を鳴らす。ボォォッ。3往復したし、車掌車の連結の合図もあったから、7回ほど鳴らしたと思う。これは楽しい体験だった。しかし、乗ってしまうと9600形が動く様子を外から眺められない。9600形の運転は土日祝日で、1日3回。午前10時30分、正午、午後2時30分だ。今日は先を急ぐから、あらためて見に来よう。

photo スハフ44形。北海道向けに製造された三等客車。
photo スハフ44形の車内。耐寒仕様のため二重窓になっている
photo 9600形の助手席で乗車体験。短距離だけど感動する

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