クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向
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» 2019年05月13日 06時47分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:マツダの決算 またもや下がった利益率の理由 (3/5)

[池田直渡,ITmedia]

ブランド価値戦略が明暗を分けた

 ブランド価値が低いと勢い値引き勝負になる。「そんなに安いならこっちでもいいか……」という買われ方である。しかし値引き勝負は過去6年間、マツダが取り組んできた「構造改革ステージ2」のメインテーマである「質的成長とブランド価値の向上」に反する。

 つまり今回の決算では、その構造改革ステージ2がうまく行った地域とうまく行かなかった地域が明確に色分けされたといえる。ブランド価値向上が明らかにうまく行ったのは日本で、及第点に達したのが欧州。逆にほぼ空振りに終わった中国と、クロスプレーでタッチアウトになった北米ということだろう。

 マツダが取り組んだブランド価値向上の詳細は過去にも記事化したことがある(2017年3月の記事参照)が、簡単におさらいしておこう。

 インセンティブを積んで新車を値引きするとどうなるか? 当然新車より高い中古を買う人はいないから、中古車相場を直撃する。査定が下がると買い替えが難しくなって、買い替えサイクルが長くなり、結局残存価値がゼロになるまで買い替えないユーザーが増える。クルマは耐久消費財で、いずれは買い替えなくてはならないのだが、そうなってからクルマを買い換えようとすると、まとまった新車購入資金が必要だから、安いクルマしか売れなくなる。こうした悪循環が発生するわけだ。

 つまり、マツダの掲げる「ブランド価値向上」を実現するためには、値引きをしないで新車を売るということが第一歩なのだ。しかしながら売れないという現実を前にすると、どうしても値引きをしたくなる。その誘惑にあらがって、なんとかして値引き無しで売れる状態に持っていかなくてはならない。

 日本での改革において、マツダは緻密な戦略を立てた。まずは2年に一度のマイナーチェンジをやめて毎年の商品改良に切り替え、特に外観の大きな変更を止めた。これによってマイナーチェンジ前後での大きな査定変化を押さえ込んだ。

 加えて、ここがマツダの大勝負なのだが、残設定型クレジットの残価率を引き上げた。3年後の残価を新車の55%という高値に設定したのだ。一般的な残価は50%で、かつ最終的に相場と違えば追い金が発生するケースも多いので、残価保証型で55%は大冒険である。もし市場価値が下がってしまえば、約束した価格で引き取るマツダは下取りするたびに大損になる。150万円で買い取ったクルマを120万円まで下げないと売れないような状況になったら、大変になるのは誰でも分かる。

 そこでオーナー自身にクルマの価値を下げないメンテナンスを実行してもらえるプログラムを用意した。まずはメンテナンスパックである。原則としてタイヤ交換以外の全ての定期点検と消耗品を含む。これをパッケージとして新車のローンに組み込んでしまえば、手元不如意でメンテナンスがおろそかになるということが起きない。

マツダが提供するメンテナンスプログラム「パックdeメンテ」(マツダWebサイトより)

 さらに制限付きながら、ボディの板金修理代を負担する保険を用意した。街中を走るマツダ車の外観がキレイであることはイメージアップにつながるし、マツダ自身としても、自慢の「魂動デザイン」の高いイメージを保つことができる。

 ちなみにマツダの試算によれば、CX-5を新車で購入して7年間乗り続ける場合と、残価設定ローンで3年ごとに新車に乗り換える場合、7年目の時点の支払い額は同額になるのだという。前者では7年後の査定はゼロに近づき、後者は2回新車に乗り換えて、まだ新車から1年、後2年乗ってまだ残存価値は55%ということになる。残存価値は大きく乖離(かいり)していく。

 そういう残存価値を上げるための戦略の一環が、販売ディーラーのCI(コーポレートアイデンティティ)刷新だ。黒を基調とした高級感のある内外装もまた、ブランド価値向上のための重要なパーツである。

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