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» 2019年05月29日 06時30分 公開

元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」:天才ギレン・ザビの失敗から学ぶ 宇宙世紀で生き残れる意外な“スキル”とは (1/4)

宇宙世紀ではニュータイプなどの才能が活躍。ただ、ギレン・ザビはじめ必ずしも天才が生き残れる訳ではない。真に必要な“スキル”とは?

[鈴木卓実,ITmedia]

 才能に恵まれても不幸な形で生涯を終える者もいれば、華やかさはなくとも成功者となる者もいる。ガンダム世界でも、ニュータイプとして優れた能力を持ちながら志を遂げられなかったキャラクターもいれば、凡才なのに戦いを生き抜き幸福をつかんだ者だっている。

 両者の違いはどこから来るのだろうか。ガンダム経済学第9回となる本稿では、宇宙世紀における天才達の軌跡を振り返りながら、人生を左右する要素について考察したい。

「勉強はできるが性格に難あり」なギレン

 時系列に沿って、まずは一年戦争を舞台にした「機動戦士ガンダム」から見ていこう。一年戦争は、ジオン公国が地球連邦政府からの自治独立を求めたことに端を発する。ジオン公国の総帥ギレン・ザビはIQ240を誇るカリスマ指導者であり、MS(モビルスーツ)を軸とした戦略によって戦争の様相を一変させた天才である。

photo IQ240を誇るジオン公国の総帥ギレン・ザビ(出典:機動戦士ガンダム 公式サイト

 IQ240ということ自体がごく稀(まれ)であるが、そのような極めてIQが高い人物が政治を主導することは異常事態といって差し支えないだろう。IQが外れ値のレベルで高い人には職業上の偏りが見られ、数学者や物理学者、チェスの名人、IT等のエンジニアに多いことが知られている。人間を相手にするよりも、難しい問題を解くことに喜びを見いだすタイプが多いという見方もできる。

 ギレンは、カリスマ指導者でIQが極めて高いという、西暦の世界の政治家とも宇宙世紀の地球連邦政府の政治家とも違う、際立った特質を自覚していたのだろう。コロニー落としによる短期決戦のもくろみが外れ、戦争終盤になっても自信に満ちあふれていたのは、凡人に見えない先々の戦局を読んでいたのかもしれない。

 一方で、自信過剰であったのか、ときに人を人とも思わない傲慢さがあった。気質に偏りがあり、スペースノイドの自治独立を獲得するという困難な課題を解決することに執心して、リアルな人間への興味はあまりなかったようだ。暗殺されるまで妹のキシリアの気持ちを察せられなかったところを見ると、勉強はできるが、性格に難のあるタイプだったのだろう。

人生は「性格」に左右される

 実は、人生はこうした「性格」に大きく左右される。経済学では、学力や偏差値、IQといった「頭の良さ」(認知スキル)だけでなく、「性格スキル」(非認知スキル)に注目した研究が行われている。2000年にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授などが代表的な研究者である。

photo 「性格スキル」を研究したノーベル賞学者、ジェームズ・ヘックマン教授(出典:シカゴ大学 公式サイト

 労働経済学の分野でも、就学前教育の効果測定という教育経済学の一分野から性格スキルの有効性が提唱され、その後、学歴を問わず性格スキルと賃金のあいだに正の相関関係が見いだされるなど、研究が進んでいる。性格スキルは成長してからも伸ばすことができるし、認知スキルよりも伸ばしやすいという特徴があるため(残念ながら、大人になってからIQはあまり伸ばせないようだ……)、一般のキャリア教育にも普及し始めている。

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