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天才ギレン・ザビの失敗から学ぶ 宇宙世紀で生き残れる意外な“スキル”とは元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(2/4 ページ)

» 2019年05月29日 06時30分 公開
[鈴木卓実ITmedia]

ギレンに無かった「思いやり」

 性格スキルは、心理学で確立した5つの性格因子(ビッグ・ファイブ)に分類される。ビッグ・ファイブは開放性、真面目さ、外向性、協調性、精神的安定性からなり、性格スキルが教育の場で意識されるとともに、データがフィードバックされ、職業別に有用な性格スキルを検証する研究も存在する。例えば、学者などの専門性の高い職業の場合、外向性はあまり重要ではない。学者は社交的でなくとも勤まるようだ。

photo 性格スキルの「ビッグ・ファイブ」。鶴光太郎『性格スキル 人生を決める5つの能力』(祥伝社新書)を基に筆者作成

 ギレンの場合、他人との関わりは仕事上の必要に迫られた物のみに見えるし、私的な交友関係も分からない。家族を大事にした弟ドズルや、劇中でロマンスが語られた末弟ガルマとは全く異なる性格だ。ギレンは学者肌だったのだろう。多少、外向性に欠けても、まだ、他人への思いやりといった協調性があれば、キシリアと連携した作戦も取れ、長生きする余地はあったかもしれない……。

アムロのメンタルに食糧事情が悪影響?

 他の登場人物を見ても、性格スキルを軸に多くのことが語れそうである。「機動戦士ガンダム」の主人公アムロ・レイは、宇宙世紀0079の一年戦争と宇宙世紀0093の第二次ネオ・ジオン紛争を比較すると、協調性も精神的安定性も格段に成長している。性格スキルが向上したのだろう。

 もっとも、アムロの精神的安定性は、一年戦争の様子を単純に見るだけでは評価は難しいかもしれない。住んでいたコロニーが襲撃されて、成り行きでガンダムに乗って戦うことになり、ジオン軍のエースパイロット・赤い彗星のシャアにつけ狙われるというのは、度を越したストレスである。しかも、単騎で大気圏突入して死を意識するような経験をすれば、訓練を受けていない民間人なら異常をきたしても不思議ではない。

 アムロの場合、食事も精神的安定性に影響していたのかもしれない。食べることへの関心が薄いタイプのようだし、ルナツーで取り調べを前に隔離されていたときは、プレートに盛られた料理を使ってガンダムの性能を解説していた。食事をおろそかにしていたのだろう。

 ホワイトベースは塩不足の危機にさらされるような艦である。マニュアルに従って料理が作られるだけで、パイロットへの栄養指導や摂食の具合の管理などは望めそうにない。正規の軍人であればそれでも良いだろうが、訓練を受けていない子ども向けの配慮といったフォローがなかったので、栄養の偏りで脳機能が損なわれていたのかもしれない。

 アムロの父テム・レイが息子の食生活に気を配っていたとも思えず、サイド7脱出前から、腸内フローラ(腸内細菌叢)の状態が良くなかったのではないだろうか。脳の主要伝達物質であるセロトニンの80%は腸で作られることが分かっており、今日、「脳腸相関」の重要性が説かれている。食物繊維の摂取量が多い国ほど自殺率が低いという研究など多くの知見が得られており、精神的安定性にとって食事の影響は無視できない。

 ジオン勢力圏を抜けて、ホワイトベースへの補給が安定した辺りから、アムロのメンタルは安定し始める。その後も、グリプス戦役、第二次ネオ・ジオン紛争と、鬱(うつ)のような状態は見られないので、食事の状態がアムロのメンタルに大きく影響していた可能性が示唆される。

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