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天才ギレン・ザビの失敗から学ぶ 宇宙世紀で生き残れる意外な“スキル”とは元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(4/4 ページ)

» 2019年05月29日 06時30分 公開
[鈴木卓実ITmedia]
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ガンダム改修に抜てきされたタクヤ

 ガンダムUCには性格スキルの点で特筆すべきキャラクターがいる。終盤でユニコーンガンダムをフルアーマー・ユニコーンガンダムに改修したバナージの同級生、タクヤ・イレイである。

photo タクヤ・イレイが改修を手掛けたフルアーマー・ユニコーンガンダム(出典:機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096 公式サイト

 ここに至るまで苦難の連続である。工業コロニー「インダストリアル7」が襲撃され、同級生の多くは死亡。地球連邦軍の戦艦ネェル・アーガマに保護されるが、艦はネオ・ジオンの攻撃にさらされるし、頼りにしていたバナージはユニコーンガンダムで地球に降下(落下)してしまう。

 ストレスの強い環境であり、精神的安定性が試される局面である。一緒に保護されたミコット・バーチは少しやさぐれたように見えるが、タクヤは安定していた。

 整備の仕事を手伝っていたとはいえ、切り札であるユニコーンガンダムの改修プランが認められるには実績不足だ。何しろタクヤはまだアナハイム工専を卒業してすらいないのである。

 MSの知識や整備技能といった認知スキルが高いだけではなく、タクヤ自身の能力を認めてもらう社交性や、高い能力を嫉妬されずに周囲とうまく仕事をする協調性が必要だ。授業中の態度はあまり良くないし、生意気な性格のようにも思えるが、ネェル・アーガマでは簡単な仕事でも真面目に取り組んで整備員の信頼を培ったのだろう。労働環境に適応しようとする中で、性格スキルが向上したのかもしれない。

 彼のMS愛は好奇心の一面であり、カタパルト射出をせず、ブースターを利用したフルアーマー・ユニコーンガンダムの推進機構を思い付くところを見ると、想像力もたくましいようだ。取り回しが難しい機体を制御するには、バランサーの調整やシステム更新も必要になる。1人では不可能な仕事であり、整備班総出でタクヤのプランを実現させたのだろう。タクヤの戦後は語られていないが、優秀なMS開発者になったでは、という夢が膨らむ。

『学問のすゝめ』と、「学ばない人間」へのシャアの絶望

 学ぶことで人生も世の中も変わる。「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」とは福澤諭吉『学問のすゝめ』の序文である。天賦人権論として知られ平等をうたった一文として知られるが、『学問のすゝめ』では、『実語教』を引用する形で「人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なり」と、学ぶことで違いが生じることを説いている。

photo 『学問のすゝめ』を書いた福澤諭吉(引用:Wikipedia

 その後、学問を紹介し、「修身学とは身の行ないを修め、人に交わり、この世を渡るべき天然の道理を述べたるものなり」とあり、奇しくも性格スキルを説明しているように読める(ちなみに、修身学の前は、「経済学とは一身一家の世帯より天下の世帯を説きたるものなり」である)。性格スキルを“学ぶ”ことで世渡りの道理を身につけるというのは、裏を返せば、学ばねば人はエゴに飲み込まれ、人と人とが互いに分かり合えるようにはならないとも解せる。

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」において、人間の知恵を楽観するアムロに、シャアは、「ならば、今すぐ愚民どもすべてに叡智(えいち)をさずけてみせろ!」と激高する。それは誰よりも多くのニュータイプを見て来たが故に、人が学ばない生き物だと悟った哀しい男の絶望の叫びだったのかもしれない。

著者プロフィール

鈴木卓実(すずき・たくみ)

たくみ総合研究所・代表。エコノミスト、睡眠健康指導士。ガンダムと同じ年齢(1979年生まれ)。新潟生まれ仙台育ち。仙台育英学園高等学校出身。地元での仮面浪人を経て、慶應義塾大学総合政策学部を卒業。2003年、日本銀行に入行後は、産業調査や金融機関モニタリング、統計作成等に従事。2018年より現職。経済家庭教師や各種セミナー(個人向け、企業向け)、経済・金融や健康リテラシー向上のための執筆、アドバイザーなどを通じて情報発信を行う。楽天証券トウシルにて「数字でわかる。経済ことはじめ」、東洋経済オンラインにて「あの統計の裏側」を連載。ビデオニュース・ドットコム「マル激トーク・オン・ディマンド」(第929回)へ出演。


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