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天才ギレン・ザビの失敗から学ぶ 宇宙世紀で生き残れる意外な“スキル”とは元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(3/4 ページ)

» 2019年05月29日 06時30分 公開
[鈴木卓実ITmedia]

性格スキルに問題ありまくりなカミーユ

 ニュータイプとしてガンダムを操った歴代のエースパイロットの間でも、性格スキルはまちまちだ。「機動戦士Zガンダム」の主人公カミーユ・ビダンは精神的安定性に欠けていた。ティターンズの軍人ジェリド・メサに名前のことを言われただけで殴りかかっている。まして、ティターンズがスペースノイド弾圧に躊躇(ちゅうちょ)しないことが分かっているのにもかかわらずである。

 カミーユは、グライダーのような携帯型飛行機「ホモアビス」の大会で2年連続優勝、ジュニア・モビルスーツ大会も優勝、空手部に所属するというガンダムの主人公にしては珍しい文武両道の秀才だ。だが性格スキルを立て直さない限り、戦争に巻き込まれなくとも、トラブル続きの人生を送ったことだろう。

 父のフランクリン・ビダンは地球連邦軍の技術士官(ガンダムMK−II の開発者)でティターンズに協力する大尉、母のヒルダ・ビダンが材料工学を専門にする技術士官の中尉という特殊な事情がなければ、カミーユは禁固刑になっていても不思議ではない。どこかで甘えの部分や釈放されて当然と思っている節があるようで、協調性にも難がありそうだ。

人格に助けられたジュドーとバナージ

 性格スキルに助けられた者もいる。「機動戦士ガンダムZZ」の主人公ジュドー・アーシタは、ニュータイプにしては良い意味で普通っぽい。苦労人だがスレておらず、妹思いで友人もいる。性格に恵まれたおかげで、第一次ネオ・ジオン紛争の最終局面ではハマーン・カーンとの一騎打ちに持ち込むことができた。ハマーンはジュドーを殺したくないという気持ちが出て、集中力を欠いた面があったかもしれない。これがカミーユだったら、どうなっていたのだろうか……。

 ジュドーはよほど好かれる性格だったのだろう。戦後、ジュドーはジュピトリスII の乗務員として木星を往復する数年がかりの航海に出る。MSパイロットとしていくら秀でていても、長期の航海では求められる能力が異なる面がある。他の乗務員と協力して仕事をしなければならないし、諍い(いさかい)を起こしても艦を降りることはできない。

 ジャンク屋のバイトで学校をサボりがちだったため、学校の授業のような認知的スキルは欠けていたのだろうが、根は真面目ということもあって、ポテンシャル採用されたのだろう。ルー・ルカも同伴しており、破格の条件での職場待遇だ。いくら軍功があるとはいえ、地球連邦政府がわざわざ木星航海にリスクを背負いこむとは思えず、信頼に足る人物と評価されたのだろう。

 「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」の主人公バナージ・リンクスは幼い頃に父カーディアス・ビストの下で訓練を強要されていたが、見かねた母に連れられ、豊かではないが、常識的な生活を送る。

 あのまま訓練を続けていては、パイロットとして優れた才能を発揮できても、人間らしい生き方ができたかは疑わしい。混沌とした戦局を生き残れたのは、地球連邦軍にもネオ・ジオン軍にもバナージの理解者・協力者を得られたことが大きいように見える。ガンダムのパイロットの中では、最も良識ある性格が幸いしたのだろう。

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