「工場から、白人がいなくなっていたのです。製造現場から、プアー・ホワイトが消えた。白人に代わり、ヒスパニック系やアジア系の移民が働くようになった。移民たちは、プアー・ホワイトよりもやる気があって、能力も高い。正確には移民のなかでも優秀な部類の人たちが、働き出していた。変化はほんの、5、6年の間に起きました」(大澤氏)。
白人から移民にワーカーが代わる現象は、半導体メーカーのインテルや機器メーカーのヒューレットパッカード(HP)など、シリコンバレーのハイテク工場で同時に起きていた。
それまで、日本企業から追い上げられていた米国のハイテク企業だったが、優秀な移民ワーカーが増えたことで競争力を再び取り戻していった。
「ただし、プアー・ホワイトは、工場を追われました。すると都市が崩壊していった。格差は広がり、リッチ・ホワイト(裕福な白人)は郊外に大きな家を建てて移住。シリコンバレーの中心都市であるサンノゼのダウンタウンは衰退し、危険極まりない場所に変貌します。ロサンゼルス暴動が発生した1992年頃の話です」と大澤氏は話す。
移民にハイテク工場の職を奪われたプアー・ホワイトは、低い時給の仕事に甘んじることになる。彼らは、2008年のリーマン・ショックを経て、「アメリカ・ファースト」を訴える大統領候補、共和党のドナルド・トランプ氏を支持して、彼の大統領就任に貢献する役割を果たした。
一方で、ハイテク工場で安定した職(ジョブ)を得た移民たち。彼らはやがて結婚し、蓄財し、子供たちに高等教育を受ける機会を与える。
「カリフォルニア大バークレー校やスタンフォードなどトップクラスの大学、人によっては大学院に進む移民の子があらわれます。卒業すると、シリコンバレーの企業の研究開発部門に就職する。両親のようなワーカーではなく、エンジニアとして。現在は、AI(人工知能)をはじめ最先端分野をけん引しています」と大澤氏は解説する。
世代をまたいで、アメリカ経済を、そしてイノベーション(技術革新)を移民たちはけん引していく。
なお、アメリカで企業に幹部(エグゼクティブ)候補として就職する場合、日本企業のような大卒4月一括採用もなければ、総合職といった曖昧なポジションもない。日本の労働基準法に当たる公正労働基準法(FLSA)から除外される「エグゼンプト(exempt)」で入社する。残業時間に制限はなく、一日に16時間でも働く。それでも残業代はつかない。
エグゼクティブの一番下の職位であるディレクターに出世できれば、若くても10万ドル以上の年収を手にできる(成果は求められるが)。シニアディレクターやバイスプレジデント(VP)といったジョブグレードの高い職位への出世も可能となっていく。
また、ベンチャーとして起業し、やがてIPO(株式公開)により巨万の富を手にする移民もいるし、これからも続くはずだ。一般論だがシリコンバレーでは、「一番優秀な人は起業し、次に優秀な人は就職し、できない人が公務員になる」と、日本とは逆の考え方である。大手に就職しても、起業のためすぐに辞める人も多い。
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