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“移民”解禁で仕事を奪われる「プアー・ジャパニーズ」は出現するか岐路に立つ日本社会(1/5 ページ)

» 2019年05月29日 07時30分 公開
[永井隆ITmedia]

 受け入れが拡大されていく外国人労働者。4月に改正入国管理法(入管法)が施行され、新たな在留資格が設置された。背景には深刻な人手不足がある。ただ、既に指摘されているのが「将来、流入する外国人労働力が日本人の仕事を奪うのでは」という懸念だ。

 実際、代表的な移民国家である米国では、「プアー・ホワイト」と呼ばれる貧しい白人層が政府の従来のグローバル化や移民政策に不満を募らせ、トランプ政権の強い支持基盤になっている。一方で米国への移民が若い才能を醸成し、ITを始めとした成長産業を国内に生み出してきた経緯もある。

 日本の“移民”解禁は果たして日本人から仕事を奪い、その結果、外国人労働者への不満を募らせる“プアー・ジャパニーズ(貧しい日本人)”を生むのだろうか。また、逆に事実上の移民である外国人労働者のなかから将来、日本版スティーブ・ジョブズが誕生し、日本経済を新たな成長軌道に乗せる可能性も考えられる。もしかしたら今、日本社会はちょっとした岐路に立っているのかもしれない。

photo 事実上の“移民解禁”は日本人から仕事を奪うのか(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

「日本国内の工場から日本人が消える」

「日本はこれから、米国と同じ道をたどるでしょう。すなわち、日本国内の有力な工場から日本人が消えていく」。こう話すのは、経営コンサルタントの大澤智氏だ。

photo 永井隆(ながい・たかし)。フリージャーナリスト。1958年生まれ、明治大卒。記者をしていた東京タイムズの休刊で失業後、独立。自動車やビール業界など企業取材に精通し雑誌や新聞に執筆。主な著書は『EV(電気自動車)ウォーズ』(日本経済新聞出版社)など。

 大澤氏は1980年代前半に、世界最大の半導体製造装置メーカーである米アプライドマテリアルズの日本法人に入社。装置を据え付ける現場エンジニアでキャリアをスタートさせ、2000年代には日本法人の執行役員を務めて退職した。この間、米本社にも勤務した経験を持つ。

 1980年代半ば、シリコンバレーの工場から送られてくる製造装置を、日本の東芝や日立の半導体工場に搬入しようとすると、ポテトチップスの破片が梱包装置の隙間に紛れていた。「米国の工場で働いていたいわゆる“プアー・ホワイト(貧しい白人)”の食べ残しでした。白人は工場に半数はいて、食べながら作業をしていた」と大澤氏。

 ところが、90年代に入ると、梱包を解いても菓子はもちろん、異物が落ちていることは無くなる。

「どうしてだろう」と、最初はいぶかっていた大澤氏だが、カリフォルニア州サンタクララにある本社工場を定期的に訪れるうち、ある変化に気付く。

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