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“移民”解禁で仕事を奪われる「プアー・ジャパニーズ」は出現するか岐路に立つ日本社会(4/5 ページ)

» 2019年05月29日 07時30分 公開
[永井隆ITmedia]

“移民政策”明確にしないとモノ作りで敗北

 ただし、喫緊の人手不足解消だけではなく、とりわけお家芸であるモノ作りにおいて、産業構造にまで踏み込んで外国人労働者を活用していく必要に本当は迫られている。

 平成のほぼ30年間で、半導体をはじめ、リチウムイオン電池、液晶、有機EL、フラッシュメモリーといった先端分野で、日本は韓国と中国に追い越されてしまっている。リチウムイオン電池、有機EL、フラッシュメモリー、は日本の開発技術なのに、である。

 さらには、リチウムイオン電池が搭載され先端技術の象徴でもある電気自動車(EV)も、日産や三菱自動車工業が最初に量産を始めたのに、直近では中国企業に販売台数で負けているのだ。

 韓国や中国、さらには米国に対し、逆に日本が優位なのは、技術力のある中小企業が数多く集積している点だ。中小企業には、高い技能を持った職人がいる。職人をリスペクトするカルチャーもある。

 しかし、中小企業の問題点は事業承継に加え、職人がもつ技能の継承者が少ないことだろう。本当は、外国人労働者を継承者としても起用したい。しかし、「特定技能」では職務内容が厳格に規定されているため、これが難しいのだ。

 日本政府は外国人労働者を「移民ではない」と主張し続けている。このため、外国人を育成するための柔軟さが欠如(けつじょ)しているのだ。1号での在留期限が5年に制限されているのも、雇用側にとってはネックである。「1号のままだと、これから現場のリーダーにと考えても、帰国させなければならない」(自動車部品メーカー幹部)という声は強い。

 今回の入管法改正についても、「日本政府はまず、ドイツのように『移民政策』であると明確にするべき」(ヨーロッパの移民政策を専門とする浜崎桂子立教大学教授)といった指摘は少なくない。

特定技能の労働者は外国人版「おしん」

 日本で働く外国人は、約146万人(2018年10月・アルバイト学生なども含む)。この10年間で約100万人増加した。意外に思われるかもしれないが、大卒など高学歴の外国人にとって、すでに労働市場が開かれた国の1つである。

 日本の大学や専門学校、あるいは自国の大学を卒業していれば、日本でホワイトカラーとして働くことは容易なのだ。大卒者ということは、大半は富裕層の子女である。これに対し、過重労働などで何かと問題が多い技能実習もそうだったが、今回の特定技能の外国人労働者は、富裕層の坊ちゃんやお嬢さんではない。

 若くとも艱難辛苦(かんなんしんく)を経験し、海を渡り日本にやってくる人たちだ。現在NHKがBSで再放送している、30年以上前の連続ドラマ「おしん」とも人物像が重なる。

 「おしん」がそうであるように、奉公先で商売道をたたき込まれ、やがて自ら事業を起こしていく。こんな外国人労働者も今後現れれば、日本人の雇用を広げてくれるだろう。アジアから来たおしんが躍動し、さらに20年後には移民二世から日本版スティーブ・ジョブズが誕生して、日本経済が飛躍的に発展していくかもしれない。

 異才たちによって新しい未来は開ける。そのためには、事実上の移民を職場でいかに生かして育成していくかが日本企業に問われている。

 異質を受け入れるのは容易ではないし、競争から格差は広がる。プアー・ジャパニーズはもちろん、現状でも高学歴のプアー・フォーリナー(貧しい外国人)が生まれてきている。それでも、ダイバーシティー(多様性)を求めてやり抜いていかなければならない。いや、本当はもっと早く、事実上の移民を受け入れるべきだった。

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