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» 2019年05月30日 07時00分 公開

本気で社員を幸せにする会社:うちの会社も「好きな日に出社し、嫌いな仕事はやらなくていい」働き方はできますか? “自由すぎるエビ工場”のトップを直撃 (1/3)

「好きな日に働き、嫌いな仕事はやらなくていい」――。そんな働き方をしているにもかかわらず、業務がうまく回っているエビ加工工場「パプアニューギニア海産」。なぜ、この工場は「到底できそうもない働き方」ができるのか。

[やつづかえり,ITmedia]

 今や浸透した感がある「働き方改革」ですが、成功事例を知っても「うちではできない」と思う経営者も多いようです。「好きな日に働き、嫌いな仕事はやらなくていい」――そんなパプアニューギニア海産の働き方も、一見すると「うちではできない」と思ってしまう取り組みの最たるもの。この、「できない」を「できる」に変えたのは何なのでしょうか。パプアニューギニア海産 工場長の武藤北斗さんに伺いました。

Photo 武藤北斗(むとうほくと)パプアニューギニア海産 工場長。1975年福岡県生まれ。芝浦工業大学金属工学科を卒業後、築地市場の荷受に就職し、セリ人を目指す。その後パプアニューギニア海産に就職。2011年の東日本大震災で石巻にあった会社が津波により流され、福島第一原発事故の影響もあり大阪への移住を決意。震災による二重債務を抱えての再出発。ユニークな働き方改革で注目を集める

本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本

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 本記事は、やつづかえり氏の著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)から抜粋、再編集したものです。


それぞれの職場なりの「働きやすさ」を追求する

――聞き手:やつづかえり パプアニューギニア海産の「フリースケジュール」制もそうなのですが、働き方改革の取材をしていていつもジレンマを感じるのは、「この会社だからできるんだよね」という反応が多いことです。もちろん、そっくりそのまま他の会社に転用できないのは確かですが、実践している武藤さんとしては、どうお考えですか。

 武藤 フリースケジュールをよその会社で取り入れるには、どうやったらいいか――ということは、僕も最初は考えていました。それを質問されることも多かったので。

 でも、問題はそこではないと思うのです。大事なのは「どうしたら働いている人たちが働きやすいか」ということで、経営者や組織をつくる人はそれを考えて実行していくだけです。僕にとっては、その「働いている人が働きやすい方法」がフリースケジュールだっただけなんですよね。そういう意味ではどんな業種のどういう立場であろうと、“働きやすい職場”にできるはずです。

―― 今はそういう本質の部分ではなく、「この事例と同じことを自社でできるかどうか」を考えることに終始している経営者の方も多いかもしれません。職種、業種、業態などによってできることが違うけれど、本質の部分を探求しつくしていない感じはしますよね。

 武藤 自分の会社にとって本当に必要なことは何か? の見極めが第一歩ですよね。うちの場合は、家庭を持つパートさんが多かったので、フリースケジュールが合っていたというだけです。

 ただ、結果としては、フリースケジュールにして出勤率が上がったと感じます。昔は出勤日の振り替えを許していなかったので、子どもが熱を出して休んでも、代わりの出勤はできませんでした。

 でもパートさんは時給なので、今では都合が悪い日は来ないけれど、必要なお給料の分は来てくれます。だから長いスパンで考えると、出勤率は上がるんです。発想としては大したことではないですよね。体調や都合が悪いときはしっかり休み、自分の好きなときにやりましょう、というだけです。

 もう一つ、やはり他社の方などからよく注目いただく「嫌いな仕事はやってはいけない」という制度に関しては、「取りあえず好き嫌いだけ聞いてみようかな」と言う方が多いので、既に自社で取り入れて実行している方もいるかもしれないですね。

―― 工場の作業の好き嫌いを記入する「好き嫌い表」は、コロンブスの卵的発想ですよね。「嫌いだと思っていることがみんな違う」というのは、意外と気付かないことだと感じました。

 武藤 そうですね。僕も実際にアンケートを取るまでは、「みんな違うだろう」と思いつつも確信はなかったのですが、漠然と感じていたことが合っていたんだなという手応がありました。

―― 作業の好き嫌いを聞くと、すごく片寄る会社もあるかもしれません。

 武藤 僕は、片寄ったら片寄ったでいいと思うんです。このアンケートは、各自の好きなこと、嫌いなことを把握することも目的ですが、他にも目的があります。一つは、みんなが思っていることをきちんと言って、顔色を伺い合うようなことをなくしていくためのツールであるということ。誰かが黙って我慢するというような不平等感をなくすために考えたものなのです。

 もう一つは、「自分の嫌いなことを乗り越えると成長する。だから嫌いなことにも挑戦すべきだ」とよく言われますが、挑戦するかどうかも自分で選択すればいいと思うんです。

 例えば、好き嫌い表で嫌いな作業をマルにしておけば、挑戦することもできます。好き嫌い表の使い方は、単純に好き嫌いを記入する人、挑戦のツールに使う人など、パートさんによってさまざまです。

 それに、うちの場合だと、好き嫌い表で「嫌い」と書くとその作業はできなくなり、代わりに他の作業をより長時間することになります。そうなると思えば、「いや、そこまで嫌いじゃないかな」と自分を見つめ直したりもできます。

 それは実は、単調な作業に「楽しさ」を見いだす方法だったりする。

 フリースケジュールも好き嫌い表も、いろいろな効果がありますが、「もっと働きやすくする工夫」である点は共通しています。

―― 武藤さんは人の心の機微に敏感ですよね。「『嫌い』と書くとその作業ができなくなって、別の作業を長くやらないといけないから、自分を見つめ直すことになる」という話にも、それが現れていると思います。その人の心の機微を感じ取る力は、改革をしていく上で身に付いたものですか?

 武藤 もともとの自分の性格もあるかとは思いますが、働き方を変える中で身に付いたものだと思います。「みんな、これどうかな? 今、やりやすいかな」とリーダーが真剣になるほど、人間関係が良くなって効率が上がりますし、すごくプラスになります。それに気付いてからは、意識的に従業員の思いを探るようにしています。

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