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SaaSビジネスに必要なもの――スタートアップを助ける「三種の神器」「クラウド・バイ・デフォルト」の波(2/4 ページ)

» 2019年06月06日 06時00分 公開

「クラウド・バイ・デフォルト」の波

 「MaaS」(Mobility as a Service)という言葉がある。近年話題のカーシェアやライドシェアがその典型で、自家用車という形で車を所有するのではなく、サービス事業者が提供する車を時間単位で借りたり、あるいは他者から一時的に借りたりして、目的地に向かって同乗するといった利用形態のことを指す。

 かつてはモータリゼーションの先駆けとなったT型フォード、日本では高度成長時代のマイカーブームを経て生まれた「自家用車」という概念は、やがて自動運転技術の成熟とMaaSによる移動手段のサービス化により終焉(しゅうえん)を迎えると考えられている。

 現在、自動車メーカー各社は、(自動車業界に比べれば新興の)IT企業らと組むことで自動運転技術の開発を急ぎ、来たるべき自動車業界のサービス化に向けた動きに備えている。これもまたビジネスモデルの変化での生き残りをにらんだものだ。

近年起こりつつある消費者行動の変化とビジネスソフトウェアの世界

 当然、こうした波はビジネスソフトウェアの世界にも波及しつつある。かつてコンピュータが高価だった時代、企業向けのシステムは所有すること自体に意味があった。メインフレームと呼ばれる機械を先行して導入した企業はわざわざ外部からの見学者向けブースを用意して公開していたほどだ。

 当時、ハードウェアの保守に必要な人員やそこで動作するソフトウェアは、システムを納入する会社にとって“タダ同然”という扱いだったという。だがハードウェアが普及価格帯に達し、さまざまな規模のビジネスに対応できるようダウンサイジングが始まるとともに、ソフトウェアや“人”の重要性が増していく。

 必要なソフトウェアは全てスクラッチから構築して所有し続けるのが一般的だった時代は、1990年代にパッケージソフトウェアの利用が広まったことで流れを変え、「カスタマイズは最小限」「汎用ソフトウェアに自社のビジネスフローを合わせていく」という企業が増えてきた。いまだ従来ながらのソフトウェア開発と“所有”にこだわりを見せる企業もあるというが、コスト面やビジネス環境の変化から、こうした手法のデメリットが理解されつつある。

 また、ソフトウェアも自社のデータセンター内で全てを抱え込む「オンプレミス型」の所有モデルから、重要性や安全性を鑑みつつ、少しずつ外部へと出す方法が模索されている。この外部のデータセンターを活用してシステムを“サービス”として利用する仕組みを「クラウド」と呼び、中でも特にアプリケーション利用に特化したものを「SaaS」(Software as a Service)と呼んでいる。

 クラウド化の第1弾として、独立した物理ドメイン上で運用を行う「シングルテナント型SaaS」があり(動作形態によって「IaaS」や「PaaS」などとも呼ばれる)、次のステップとして「マルチテナント型SaaS」という概念に到達する。後者は複数の顧客で同一の環境を共有する仕組みで、代表的なベンダーとしてSalesforce.comがある。何より利用者にとってコスト面でのメリットが大きく、企業の規模に関係なく利用が広まりつつある。

 これは政府が利用する情報システムでも同様だ。例えば、日本政府は2018年6月に公開した「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用にかかわる基本方針」という資料の中で、明確に「クラウド・バイ・デフォルト」(Cloud by Default)をうたっている。

 クラウド・バイ・デフォルトとは、システム調達段階の最有力候補として「クラウド」を必ず含めるという方針で、コスト面やスピード感で優れるクラウドを戦略的に取り入れていくことを示している。こうした動きは、遠からず民間企業にも規模の大小を問わずやってくると考えていいだろう。

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