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SaaSビジネスに必要なもの――スタートアップを助ける「三種の神器」「クラウド・バイ・デフォルト」の波(3/4 ページ)

» 2019年06月06日 06時00分 公開

SaaSを提供する側の苦悩

 ここまでは昨今の市場の変化を紹介しつつ、SaaSを利用する側にとってのメリットを解説した。利用者側にとってのビジネスソフトウェア選択の基準はシンプルで、それが費用対効果の面で理にかなっているのか、実際にどの程度業務の効率化に貢献するのかを鑑みつつ、SaaSに移行した場合のメリットとデメリット(セキュリティやダウンタイムのリスクなど)をてんびんにかけることになる。

 どの程度のデータを外部に出しても問題ないかというポリシーは会社や国の基準によるため一律にはいえないが、ことデータ管理の安全性やダウンタイムの面ではSaaSを運営するベンダーの方がプロフェッショナルであることが多く、適切な運用がなされると考えられる。自社のデータセンターやサーバがハッキングされてデータが漏えいするリスクは常にあるし、ダウンタイムをゼロで運用することはおそらく困難だ。

 一方で、これをSaaS提供者側の話にもってくると、別の側面が見えてくる。これまでパッケージ販売や受託開発を行ってきた独立系ソフトウェアベンダー(ISV)がSaaSの世界に入ってこようとしたとき、実際にサービス提供者として動こうとすると高い壁に突き当たる。仮に特定分野でニーズの高い製品や技術を持っていたとしても、SaaSをすでに提供している他の事業者と同様の仕組みを開発するのは難しい。

 例えば、従来のオンプレミス型システムであれば、ソフトウェアを導入したサーバを遠隔監視し、あとは保守契約に基づいてアップデートやパッチ対応を行えばいい。だがソフトウェアをクラウドに移行してSaaSとした場合、サービスの動作形態は利用人数や機能によって月額料金が変化する従量課金タイプへと移行する。ソフトウェアの管理単位もマルチテナント型では複数組織のドメインを並列に管理しなければならず、アップデート対応も全ての利用者で同一のタイミングになる。

SaaSビジネスを支援する三種の神器

 Still Day Oneの小島英揮氏によれば、国内ISVや人的リソースの限られるスタートアップ企業がこうした課題をサービス提供初期の段階でクリアするのは難しく、必要なコンポーネントを用意しておくことで支援するのが重要だという。そこで、ISVが従来の売り切りモデルから脱却し、海外展開も視野に入れたサブスクリプションモデルに移行するための支援策として用意したのが「Go_SaaS 三種の神器」プログラムだ。

昨今のソフトウェアビジネス概況とSaaSへの流れについて説明するStill Day One代表社員の小島英揮氏

 同プログラムでは、サービスアクセスの鍵となるID管理の「Auth0」、マルチテナント型SaaSで重要となるソフトウェア開発継続とフィードバック管理を行う「CircleCI」、そしてサブスクリプションでの継続課金の仕組みを提供する「Stripe」の3社のサービスを組み合わせつつ、クラウド基盤を提供するAWS(Amazon Web Services)と提携することで、ソフトウェアのSaaS化を促していく。

SaaSでのサービス提供にあたって必要となるコンポーネント群

 SaaSは利用者側のメリットが大きい。しかし、これを効率よく運用するためにはサービス提供者側がコスト効率を最大限に追求しつつ、リリースを継続していかなければならない。従来になかった提供者側のメリットとして顧客からのフィードバックが適時入ることにより製品改善への反映スピードが速くなる点が挙げられるが、これは同時に開発サイクルや体制の見直しが必要なことも意味する。

 その一方で、マルチテナント型SaaSではバージョンが全て最新のものに統一されるため、バージョンアップのサイクルが顧客ごとに異なることで発生していた複数バージョンの同時管理負担という従来の問題が改善されることになる。

 痛し痒しではあるが、やがて世界的にソフトウェアの世界がSaaSに向かう中で、いまここでソフトウェアの開発体制そのものを見直すチャンスといえるかもしれない。

最新のマルチテナント型SaaSへと移行する際に変化するビジネスモデル

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