あるとき依頼されたのは、自動車保険のリデザイン(新サービス・体験の開発) でした。
自動車保険は、普段は鳴りを潜めていて、その存在を意識するのは「更新のときと事故を起こしたときのみ」という特性を持っています。しかも、受けられる補償に関しては各社でしのぎを削り、だいたい似通っている。オペレーターの親切さやターゲットの年齢などでなんとか差別化を図り、イメージ戦略のためテレビCMを打つ。それが業界の常識でした。
そんな自動車保険をどうリデザインすれば、全く新しい価値を提供できるのか――。質問を変えるので、みなさんもちょっと考えてみてください。自動車保険に加入するユーザーが本当に求めている「願い」とは、いったいなんだと思いますか? 補償内容の充実? 加入プランの分かりやすさ? それともやっぱり、掛け金の安さ?
後述するデザイン思考のメソッドを使いていねいに読み解いていくと、ものすごくぼんやりとした、けれど多くの人が持っている「願い」が見えてきました。それが、「事故が起こったとき、1秒でも早くスーパーマンに駆け付けてほしい」という願い。
対物事故であれ対人事故であれ、いざというとき一人で冷静にいられる自信がない。だから、少しでも早く誰かに――「仲間に」助けに来てほしい、と。
リサーチ結果から、ほとんどの人は「自分だけは事故を起こさない」と思っていることが 分かりました。運転技術には自信を持っているし、まさか自分だけはそんなヘマは起こさないだろう。そう高をくくっているんですね。
しかし、そうだからこそ、いざ事故を起こしたときにパニックになってしまうと容易に想像できるのです。一人で運転しているときに、交通量の多い道路で事故を起こしてほかの車の迷惑になったら。相手にケガをさせてしまったら。警察に詰め寄られたら。……とても平常心ではいられない。電話でのフォローだけでは心もとないぞ、と。
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