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» 2019年06月12日 08時00分 公開

未知なるものを生み出す組織:やたら手が掛かる上に高価、なのに売れまくり――人に懐く「LOVOT」はなぜ、約88億円もの資金調達に成功したのか (1/3)

“人のジャマをするためだけの技術”を全力で開発、「100億円使い切るまで1円も売り上げません」と宣言――。何かと話題のGROOVE Xが世に問う“愛されるために生まれた”ロボットの正体とは?

[宮本恵理子,ITmedia]

 人が担う作業の省略化、効率化に期待が寄せられるロボット開発の分野で、その流れとは真逆の、まったく新しいコンセプトのロボットが登場しようとしている。それが“人の愛する力をはぐくむ家族型ロボット”こと「LOVOT(らぼっと)」だ。

Photo 愛する力を育むロボット「LOVOT」

 このLOVOT、人が近づくと不思議そうな表情で見上げてくる。思わず手を伸ばして触れると、うれしそうに手をパタパタ。抱き上げるとほんのり暖かくて、しばらくすると腕の中でうとうとと居眠りを始める。かわいがってくれた人のことはちゃんと覚えていて、あとをついてきたり甘えたり――。とかく手が掛かるが、それゆえ愛着がわき、メンタルケア効果も期待できるということで世界から熱い視線を集めている。

 そんなLOVOTを開発したのは、林要氏率いるロボット開発ベンチャー、GROOVE X。同社はコンセプト段階のLOVOTで約57.5億円の資金を調達したことで話題になり、2018年12月、満を持してLOVOTを披露した。同日にスタートした先行予約では初月出荷分が約3時間で完売するなど、新しもの好きの心をつかんだという。

 さらに1月には、米ラスベガスで開催された世界最大規模の家電見本市、CES 2019でLOVOTを披露。米メディアThe Vergeが主催するCES 2019のアワードでBEST ROBOTを受賞するなど、海外でも好評を博している。

 この過去に例がない、全く新しいコンセプトのロボットは、どんな発想から生まれ、市場からどんな反響を得ているのか。また、革新的なアイデアを形にするために、どんな環境で開発しているのか――。

 GROOVE X、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ、ITmedia ビジネスオンラインの3社共催による、「LOVOT」プロジェクトの舞台裏を紹介するイベントに登壇したGROOVE X CEOの林氏に聞いた。

Photo 「LOVOT」プロジェクトの舞台裏を紹介するイベントに登壇したGROOVE X CEOの林要氏

起業時に「100億円使い切るまで1円も売り上げません」と宣言

―― 林さんはトヨタ自動車で14年間クルマの開発に携わり、その間、ドイツでのF1プロジェクトにも従事。その後、ソフトバンクで「Pepper」の開発を経て、2015年末に起業されました。今回の「LOVOT」では資金調達の段階から、新たなスキームに挑戦されたそうですね。

林氏(以下、敬称略): はい。起業した時点から「100億円使い切るまで1円も売り上げませんよ」と宣言するという、かなり大胆なプロジェクトの進め方をしています。

 世界では、資金調達をした後、深く潜行して開発に集中し、浮上した時のインパクトを最大化する――というアプローチが主流になりつつあります。それは単なるブームというものではなく、そうしなければイノベーションは起きづらくなってきているからです。

 一方で、日本のスタートアップにおいては、ややもすると、「起業して数年の間は売り上げを確保するために受注開発を受け過ぎてしまい、貴重な時間と体力が奪われてしまう」といったことが頻繁に起きています。「そんなことをやっていたら、世界から取り残されてしまう」――という危機感が拭えなかったこともあり、「ならば一度、自分たちがモデルとなって、後続の人たちの道を開こう」と考えました。

 資金の集め方も、企業価値の算定を後回しにして早期に調達する「コンバーティブル・エクイティ」という手法を導入しました。これはスタートアップを活性化させる資金調達法として、シリコンバレーではすでに浸透しているものですが、日本ではほとんど例がありませんでした。

 それでも、日本の技術開発環境を活気づけたいという思いから、かなり無理をして行使しました。結果、イギリスのファイナンシャルタイムズ紙が、私たちの取り組みを評価して、顧問弁護士が表彰されるといったサプライズもありましたね。

―― まずは開発に集中できる環境をしっかり整えたということですね。

Photo なでたり抱いたり、声を掛けたり――といった親密なコミュニケーションを繰り返すとなついて近寄ってくる
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