――本書では、1950年から2000年にかけて米国人の生産性が伸び続けていたにもかかわらず、16年から低下したといった記述があります。この背景についてどのようにお考えですか?
ここで参照した文献は、測定結果にフォーカスしたもので、その要因については明らかではありません。そのため私の推測になりますが、考えをお話したいと思います。
今から10年前を思い出してください。当時はITなどのテクノロジーを導入すれば、それだけで生産性を高めることができた時代です。しかし、今はほとんどの業界において技術的なリテラシーは前提条件になっています。ということは、現代は以前と比較して、テクノロジーだけで生産性を高めることが難しくなっているのです。
そうした背景に加え、テクノロジーによる弊害も出てきています。多くの人が寝る前にスマートフォンを見て、起きてもスマートフォンを眺める。電車や職場でもスマートフォンを使う。そうして退屈感を満たそうとしていますよね。今や、職場にも自分の集中を妨げるテクノロジーが押し寄せているわけです。ここに生産性低下の一つの要因があるのではないでしょうか。
――テクノロジーが進化したことによって人間が不幸になっている面もあるということでしょうか。
テクノロジーが人類にとって非常に重要なものを破壊していることに、疑念の余地はありません。私自身、テクノロジーの分野で15年間仕事をしてきましたし、テクノロジー自体が悪とは考えていませんが、私たちとテクノロジーの関係は決して持続可能なものではないと考えています。
最近は、「SNSにアクセスをすると不安感が高まる」との研究結果も明らかになってきています。SNSで他人の投稿を見て、その人の人生がパーフェクトに感じて落ち込むといった経験をした人も多いのではないでしょうか。
私はこの本を書くにあたって、幸福感に関する科学を徹底的に勉強しました。そこで分かったことは、SNSやニュースを見ることに時間を使っていると、幸福とは逆の方向に気持ちが向いてしまうのです。
私はソフトウェアのデザイナーも経験しているのですが、多くのソフトウェアは、ユーザーが“依存”するように設計されています。たとえその人にとって不快であっても、使い続けてもらえばいいのですから。
――それでは、テクノロジーから離れる時間を増やす必要がありますね。
そうです。人間には他者とつながろうとする本能がありますが、オンラインによる関わりを増やしても決して満たされません。みなさんも自分の住む街に、長い間直接会って話をしていない友人がいるのではないでしょうか。そうした友人とSNS上でやりとりをしたり、写真を共有していたりするかもしれませんが、一緒にビールを飲みに行ったほうがずっといいでしょう。
私が考案したノート術である「バレットジャーナル」は、自分の感情を記録することにも使えるものです。私は長らくフリーランスで仕事をしていたこともあり、オンライン環境が当たり前だったのですが、バレットジャーナルによって、私にとってオンライン環境は居心地が良いものではないことを理解できました。
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