派遣という雇用形態で働く人を取り巻く環境が大きく変わりつつある。きっかけは2015年9月30日に施行された改正労働者派遣法(以後、改正派遣法)。同じ職場で働ける期間の限度が、原則3年間と定められた(関連記事)。
同時に派遣会社には、働く人の雇用の安定と、キャリアアップを図るための措置が義務付けられている。派遣会社は働く人が同じ職場での勤務を希望した場合、派遣先の企業に直接雇用を依頼するか、派遣会社自体が無期雇用するなどの対応をしなければならない。
施行から3年以上が経過し期間制限が適用されるなか、働く人の「雇用の安定化」と、「キャリアアップを図る」という法律の趣旨の通りに対応がなされているのか、その実態は不明だ。
今回、長年派遣で働き、19年で3年の期限を迎えた30代の女性に話を聞くことができた。彼女の話から、派遣で働く人が、今回の法改正によって翻弄されている実態が浮かび上がってきた。
「無期雇用をご希望されているということですが、無期雇用はあまりお勧めできませんね」
改正派遣法の施行から3年が経過しようとしていた18年夏、派遣で働く30代女性のAさんは、大手派遣会社の担当者からこう告げられた。
Aさんは12年にこの派遣会社から外資系の企業に派遣された。産休と育休を取得し、15年に復職後も引き続き同じ企業に勤務している。企業からは直接雇用の話も出ていたが、社内の事情で頓挫したため、Aさんは派遣会社に無期雇用されることで、同じ企業で引き続き働きたいと希望していた。
ところが、派遣会社の担当者は無期雇用を勧めようとしない。担当者はAさんに対し、勧めない理由を次のように説明した。
「無期雇用になっても、いまの会社で働けるとは限りませんよ」
「違う会社で働くことになった場合、通勤時間が片道2時間以内の範囲であれば、その会社で働くことを拒否できません」
担当者の説明はさらに続く。その内容はAさんにとっては不利益なものばかりだった。
「無期雇用に転換して、やっぱり嫌だと思ってやめる場合は、退職になります。退職になると、1年間は有期雇用として別の派遣先を紹介することはできません。これは“決まり”です」
退職という形になってしまうと、これまで加入してきた雇用保険もリセットされてしまう。あえて不利益な内容を説明するのは、担当者が無期雇用にしたくないからだろうとAさんは感じた。
話し合いが終わった後、Aさんは担当者の説明が正しいのかどうかを確認しようと、派遣会社のWebサイトを見た。ログインして自分専用のページを確認しても、無期雇用に関する説明はなかなか見つからない。派遣会社に電話で問い合わせながら、画面下にスクロールしていくと、ようやく一番下の方に改正派遣法のことがほんの少し書いてあるだけだった。登録している派遣会社が無期雇用に消極的な姿勢であるのだと受け取らざるを得なかった。
それでもAさんは、現在勤めている派遣先の企業は働きやすいので、職場を変わりたくなかった。状況を企業の上司に相談すると、「私たちもAさんに残ってほしいので、派遣会社が無期雇用にして引き続き働けるようにお願いする」と言い、すぐに派遣会社に連絡してくれた。これでいままで通りに働けるのではとAさんは希望を持った。
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