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「無期雇用はお勧めできません」――ある派遣社員が法改正に翻弄された現実「改正派遣法」が派遣社員を守っていない(3/5 ページ)

» 2019年06月19日 05時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

派遣会社で全く違う条件

 同僚2人は条件面などを鑑みた結果、人財サービス会社のアデコに移籍した。Aさんもアデコに相談すると、現在の時給はそのままで、その上で交通費が支給されるという。しかも、本来であれば有休はゼロからスタートするが、最初から年間10日の有休を取ることができるといった条件を聞いて、Aさんは移籍を決意した。

 派遣会社の移籍を派遣先の企業に相談すると、快く応じてくれた。さらに時給が当初の金額よりもアップすることが決まった。企業とアデコの双方が、Aさんが長年働いてきたことを評価したからだった。

 Aさんはこれまで所属していた派遣会社と4月から無期雇用の契約にすることに決めていたが、派遣先の企業が契約期間を19年3月までに短縮してくれて、契約を4月から切り替える手続きを進めてくれた。Aさんに無期雇用を勧めなかった先述の担当者は、年末で派遣会社を退職していた。新しい担当者に移籍を申し出たところ、すんなりと受け入れられ、「他の派遣会社の方が条件がいいですよね」と言われただけ。特にトラブルもなく円満に派遣会社を移ることができた。Aさんは4月以降も同じ職場で引き続き働いている。

「偶然」に委ねられたキャリア

 Aさんは昨年夏の派遣会社とのやりとりから、移籍できるまでの経過を振り返って、幸い同じ職場で働けるようになったものの、法改正に振り回されたと感じる部分も少なくない。

 「円満に移籍できたのは、同僚2人の移籍を知って説明会に参加したことや、派遣先の企業も快く応じてくれるなど、いろいろな幸運が重なったからです。自分にとっていい形で契約できたのはたまたまではないでしょうか。思い通りにいかず、大変な思いをしている人も多いと思います」

 アデコは昨年9月、全国の企業や団体で派遣社員として働いている500人に、無期雇用などに対する関心などをインターネットで調査した。

 「今後、無期雇用の派遣社員として働きたいと思いますか」という質問に対して、「思う」と答えた人が18.4%、「どちらかといえば思う」が39.0%。つまり約6割の派遣社員が将来的に無期雇用の派遣社員として働くことを希望しているのが分かる。

 一方で、「改正派遣法について、どれくらい知っていますか」との問いには、「まったく知らない」と答えた人が43.0%もいた。

 Aさんのように、派遣会社によって無期雇用への対応や時給などで異なる条件を提示された背景には、改正派遣法が、働く人だけでなく派遣会社にも正しく理解されていないことが考えられる。時給のダウンは、キャリアアップ措置を義務化した法律の趣旨に反する可能性もあるからだ。

 派遣会社の関係者に話を聞くと、改正派遣法に対する対応は、会社によってそれぞれ異なっているという。派遣先の企業に直接雇用するように交渉して紹介料を得るところもあれば、働く人に有期雇用を勧め、その代わりに派遣先企業を増やすことに力を入れている会社もある。つまり、必ずしもAさんのように働く人の希望が通るとは限らないのが実態なのだ。

photo 「今後、無期雇用の派遣社員として働きたいと思いますか」という質問に、約6割の派遣社員が将来的に無期雇用の派遣社員として働くことを希望した(以下、アデコのWebサイトより)
photo 43.0%が改正派遣法について「まったく知らない」と答えた

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