#SHIFT

「無期雇用はお勧めできません」――ある派遣社員が法改正に翻弄された現実「改正派遣法」が派遣社員を守っていない(2/5 ページ)

» 2019年06月19日 05時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

10年も働いているのに時給ダウン?

 すると10月になって派遣会社の担当者の態度は一変した。担当者は前回の説明がなかったかのような態度で「無期雇用スタッフになりましょう」と言ってきた。手のひらを返すような態度に、Aさんは不信感を抱いた。

 その不信感は、契約の条件を聞いた時にさらに膨らんでいく。担当者はAさんに、時給のダウンを提示してきたのだ。現在の時給よりも70円減額し、その代わりにこれまではなかった交通費を支給するので、総額ではいまの手取りとほとんど変わらない、と担当者は説明した。

 ただ、交通費は日割り計算なので、有給休暇を取った時には支払われない。保育園と小学校に通う子どもがいるAさんは、子どもの病気や保護者会などで確実に有休を取るので、手取りは実質的にダウンになる。

 Aさんがいまの時給になったのは、派遣先の企業が3年前の育休復帰後に、最初の時給よりも約1割上げてくれたからだった。その時は派遣会社の当時の担当者も喜んでくれた。それなのにこのタイミングで70円減らされることには違和感があった。

 しかもAさんは、現在の企業と以前派遣されていた企業をあわせると、ほぼ10年にわたってこの派遣会社に所属している。派遣先とトラブルを起こすこともなく、人間関係も良好だった。それだけに担当者の態度にはショックを受けた。

 「10年働いてきたのに、こんな扱いをされるのだなあと、残念な気持ちになりました。この派遣会社は、派遣社員を大事にしていないのだと感じましたね」

 派遣会社に不満を持つものの、いまから派遣会社を変えると、現在20日ある有休がなくなってしまう。時給が下がるのは納得できないが、従うしかない――。そう考えてAさんは条件を飲み、無期雇用に切り替えることを決めた。

 すると年末、Aさんと同じ派遣会社から同じ職場に派遣されている2人が、別の派遣会社に移籍することを知った。Aさんと同様の不信感を派遣会社に持ったからだった。Aさんは次の契約からは無期雇用となることを予定していたが、2人に紹介されて別の派遣会社の説明会に参加した。

photo 時給を減らされたAさんは「10年働いてきたのに、こんな扱いをされるのだなあと、残念な気持ちになった」という

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.