航空業界は今、厳しい国際間競争にさらされている。低価格を売りにしたLCCが急速に台頭する中、既存の航空会社は顧客をつなぎとめるために、コスト削減とサービス品質向上という相反する要件を高いレベルで両立することを求められているからだ。
国内2大エアラインの一翼を担うANA(全日本空輸)も例外ではなく、現在、生き残りを賭けた大規模な改革を進めている。その中心に位置するのが、「ITを生かしたイノベーション」の取り組みだ。
イノベーションの推進に向けて同社は2016年、社内に「デジタルデザインラボ」(DD-Lab)を新設。既存事業の枠組みにとらわれない大胆な発想で、未来のビジネスモデルを構想するとともに、既存のIT部門内にも「イノベーション推進部」を設け、先端技術を使ったイノベーションの実現に向けたさまざまな施策を手掛けている。
その取り組みは、利用者の予約からチェックイン、搭乗までの情報をデータベース化することによる、“顧客情報基盤の構築”や、ビーコンによるベビーカーと車椅子の管理、「ヒアラブル端末(イヤフォン型のウェアラブル端末)を使った機内コミュニケーション」などの新サービスに結びついている。
そんな一連の改革施策をけん引しているのが、イノベーション推進部の部長とデジタルデザインラボのエバンジェリストを兼任する野村泰一氏だ。
新卒でANAに入社した同氏は、IT部門で予約システムや発券システムなどの構築に携わり、本質的な業務改善を手掛けてきた。11年には、“航空業界の常識を変える改革”を目指し、国内LCCの草分け的存在であるPeach Aviationの立ち上げにも参画。コストと効率を考えて開発した段ボール製の手作りチェックイン機は大きな注目を浴びた。
一度はANAを辞め、Peach Aviationで活躍していた野村氏は、なぜ、またANAに戻ったのか。どんな方法で老舗企業にイノベーションマインドを浸透させているのか――。ITmedia主催の公開鼎談イベントに登壇した同氏に聞いた。
ANAから野村さんに「戻ってこないか」という話が来たのは、Peach Aviationに入って5年がたった頃だった。Peachの事業が軌道に乗ってきたことと、そろそろ新たな挑戦をしたいと思っていたことから、引き受けることにしたという。
「ANAに戻るに当たっては、『イノベーティブな仕事ができること』『スーツを着なくてもいいこと』という2つの条件を出しました。これを認めてもらい、2016年にANAに再び入社して、当初の約束通りできたばかりのデジタルデザインラボでイノベーティブな仕事をさせてもらっていました」(野村氏)
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