クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

スープラはBMW Z4なのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)

» 2019年06月24日 07時15分 公開
[池田直渡ITmedia]

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 ここでちょっと補足する。ヘルベルト・ディース副社長は厳しい状況にあったBMWの二輪部門を奇跡のV時回復させた実績を引っ提げ、四輪部門に移って来た人で、四輪部門でも、ファミリー層にも訴求するような車種構成を一気に拡大して利益率を引き上げた人物だ。いわば優秀なビジネスマンタイプ。

 対して後任のクラウス・フローリッヒ副社長はいわゆるカーガイタイプ。いわゆる「駆け抜ける歓び」を重視する人物だ。「何が何でもピュアスポーツだ」というトヨタの言い分は後任のフローリッヒ副社長の方が響きやすいだろう。担当が代わったことでプロジェクトが動き始める。


 フローリッヒさんは「そうか、トヨタがそれだけ言うならば、ホントにピュアスポーツを一緒に作るか」という話になっていったんです。

 それでは、具体的にどんなスポーツカーにするのかという話になったら、意外にあっさりベクトルが決まったんです。トヨタはスープラを作りたいのだから当然クーペ。BMWはZ4だと。オープンとクーペがあって、世界中のクルマファンが認めるクルマなんて、ポルシェのボクスター/ケイマンしかない。あの世界に届くようなFRのスポーツカーを作ると。

 そういう話になってみると、意外なことにBMWの人たちが「俺たちはスポーツカーを作った経験がない。スポーツカー作りに取り組めてうれしい」と言うんですよ。で「えーっ!? BMWにはすごいスポーツカーがいっぱいあるでしょ? 歴代各モデルのMとかがあるでしょ?」と言うと、「いやいや、あれはスポーツカーじゃない。乗用車をモディファイしたものだ。BMWが作ったスポーツカーは唯一M1だけだ。だけどあれを経験した人たちはもういない」。そういう意味でも、BMWの人たちにとってもやっぱり本気のスポーツカーを作ってみたいということは一緒だったんですね。

1978年にスーパーカーとして作られたBMWのM1

 で、まずは当たり前の話ですが、BMWとトヨタの既存のプラットフォームを全部並べて、使えるものがないかを検討したんですけど、残念ながら本気でポルシェの世界に行くならどれもダメだと。ディメンジョンを含めて大きく変えないと戦えないということになって、たどり着いたのが、あのウルトラショートホイールベースでワイドトレッドのディメンジョンだったんです。

 ああいうディメンジョンにすると、ポルシェに近い世界に行けるということはシミュレーションでほぼ分かっていたんです。BMWの普通の開発プロセスだと「シミュレーション結果でもう十分だ。次の実車プロトタイプ開発のフェイズに進む」っていう流れになっていたんです。

 ただそれをトヨタ本社にレポートすると、「いやちょっと待て、そんなホイールベースで大丈夫か? 特にスタビリティとかが本当に確保できるのか?」と物言いが付きました。

 私自身もそういわれると「うーん」となったところもあったんです。トヨタはそういう大きな変更をする場合、必ず、先・先行車みたいなものを作ってみるんです。そういうカルチャーがあるので、BMWの2シリーズを切ったり貼ったりして、ほぼ今のスープラに近いディメンジョンかつ重量と重量配分を合わせたクルマを作ったんです。これは本当に大変でした。一品もののパーツをいっぱい起こして再現していくわけですから、相当お金も手間暇もかかりました。

 で、出来上がったそれの実車テストをいろいろやって、最終的には日本に送って、本社の人たち、豊田社長も含めて乗ってもらいました。それで「これなら行ける」となってGOサインが出たわけです。

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