#SHIFT

「妻がボス」で、夫婦のもめ事が激減 ノバルティスファーマ社長の「子育て経営学」とは子育て経営学(2/3 ページ)

» 2019年06月25日 08時00分 公開
[宮本恵理子ITmedia]

―― 子育てを通して、ご自身の価値観は変わりましたか。

綱場氏 親がやらないことは、子どももやらないはずなので、子どもたちに将来してほしいと思うことは、全て私もやるという姿勢を見せたいと思うようになりました。運動しかり。図書館では子どもの絵本も借りますが、自分が読む本も借りて読みます。

 「世界で活躍しなさい」というからには、私もチャレンジ精神を磨き続けなければいけません。今はこういう仕事をしていますが、どこの国になるかは分かりませんが、いつかはさらに、もっと大きな仕事をしたいと思うのも、子どもたちに自分の背中を見せたいからです。

 子どもができてから、私の働き方は非常に効率的になったとも思います。ダラダラと長時間働くことはなくなりましたし、短い時間で集中するので生産性が高まりました。

 子育てと仕事を分けすぎず、「マルチタスキングでいい」という発想は、海外法人時代の同僚や上司から学びました。上級役員の部屋に子どもを寝かせる簡易ベッドが常設されていたこともありましたし、私の部下が育休から復帰した際にも、彼女の部屋にゆりかごを設置しました。外資系企業ではオンライン会議の途中に子どもの声が入ることもあります。私も次男を膝の上で寝かしつけながら、海外とつないで電話会議することはよくあります。今晩も21時から自宅でビデオ会議の予定がありますが、おそらく長男が突入してくるでしょうね。

 社内でも、「オープンオフィス」というイベントを定期的に開催して、社員の家族同士が交流する機会をつくっています。私の長男も、大人をまねて名刺交換していました(笑)。

子育ての戦略立案を担う妻が「ボス」

―― 世界のビジネスシーンには、子育てが自然に入り込んでいるのですね。反対に、経営の知識が子育てに生きることもありますか。

綱場氏 その方が、実感することが多いかもしれませんね。最近は、子育てで生じるさまざまな役割は、「プランニング」と「オペレーション」に分かれるのだと気が付きました。

 例えば、朝起きたら、急に子どもが発熱して病院に連れていかなければならない時、「8時に小児科に寄って、病児保育を予約して……」と戦略を立てる役割と、それを実行する役割は違います。そして大半の家庭では、戦略を練るプランニングは妻が担当し、夫はやったとしても実行役のみ、というパターンではないでしょうか。

Photo

 オペレーション担当の夫からすると、「俺も半分は子育てをやっている」と思っていても、問題解決における役割の重要度はプランニングの方が高い。ですから「私はこれだけやっているのにあなたは」「いや、俺だってこんなにやっている」という衝突が生まれるのだと思います。

 ビジネスと同様に、「プランニング」と「オペレーション」の役割分担で子育てを運営すると、互いにどう動けばいいのか分かりやすくなるなと気が付きました。

 どちらが何を分担するかは家庭によって違うと思いますが、わが家は子育てにおける戦略立案は妻の担当です。明確にしておくべきなのは「妻が上司」という共通認識です。上司はできるだけ分かりやすく指示を出し、部下は「言われなくてもやる」と心掛ける。

 いい上司はほめて気付かせてくれますよね。「食洗機の中の食器、ちゃんと片付けておいてくれたのね。ありがとう」と。たまたまやっただけのことでも、「なるほど。そこが評価ポイントなんだ」と部下は気付くわけです(笑)。私の妻は言い方が上手なんです。

 実際には、小さな口げんかはよくあります。軽いジャブ程度の言い合いが始まると、長男がかけ寄ってきて、「パパ、ダメ!」となぜかパパだけ注意されます(笑)。

 子育てに生きる経営力という点では、外注による効率化もそれに当たります。過去の慣習にとらわれず、現在の幸福最大化を図る合理的な思考は、何をするにしても大切です。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.