クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

Mazda3国内仕様試乗で判明した「ちょっと待った!」池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2019年07月01日 07時04分 公開
[池田直渡ITmedia]

 まずは2.0ガソリンユニットから。このユニットの出力特性は極めて実用的。レッドゾーンに向けてアドレナリンがドクドクと吹き出すようなスポーツユニットは最初から期待していない。むしろマツダに期待するのは、人の感性に遅滞なく追随する過渡域での振る舞いだ。そこにエンジニアの深い見識と繊細な技術の作り込みを感じるようなものには、残念ながらなっていない。

 これといった欠点がないのは大いなる救いだが、先に挙げた各要素のように第7世代を言祝ぎ(ことほぎ)たくなるような感銘も受けない。加点・減点ともになしという感想が本音だ。ところが組み合わされるトランスミッションの方は少しばかり足を引っ張る。

 具体的に批判するのは、変速のショックを取り除くために変速を遅延させてショックを消している点だ。これはつまりエンジンとミッションの統合制御によって、変速時に燃料をカットして瞬間的にエンジンを失速させ、変速後に次の段で蹴飛ばされ感が出ない制御をしているおなじみの技術である。しかしこれをやると、トレードオフとして変速作動時間、ならびにそれに付随する微小な前後加速度の非線形変化時間が延びる。

 引き合いとしてシャシーの例を挙げよう。Mazda3の第7世代シャシーの思想は、振動のピーク値をいたずらに消すことを追わずに、むしろ共振によって遅れて来る振動と複合されて複雑化させないように徹底して回折波を消していった。つまりあるべきものを消すのではなく、二次的に発生する混濁を取り払っている。

振動自体を抑えるというより、振動し続けないようにボディの各部に樹脂を取り付け、個体伝搬による振動を減衰させる仕組みを盛り込んだ。路面の振動がリニアに伝わることを目指している
路面から車体に伝わる力の大きさ自体を小さくするのが従来の考え方だったが、Mazda3では、伝わる力が遅れなく滑らかに伝わることを目指した

 クルマが揺れた時、その揺れが頭部に到達しないように、人間は体幹の筋肉を使って手ブレ補正のように調整を続ける。いつまでも揺れが尾を引くと、長時間体幹の筋肉が働かなくてはならない。だから第7世代シャシーは、振動=波を早く終息させることを徹底した。さらにあちこちに反射した回折波が複雑に重なり合って合成されないように可能な限り単純化し、体幹の筋肉の稼働時間を短くかつ単純化した。それこそが第7世代の神髄であり、世界の自動車メーカーに先駆けてマツダが初めてたどり着いた「人間中心」の理想郷ではないか?

 同じ考え方は変速ショックでもできるはずだ。変速が行われているのは事実なのだから、その情報はドライバーに伝わるべきだ。その時、余計な混濁をフィルタリングしてやる事こそが人間中心思想であって、変速ショックそのものを消そうとした結果、変速機の作動時間が延び、混濁に備えて体幹が稼働する時間まで延びてしまうのでは、第7世代思想に遅れを取っている。

 念のために言っておくが、シートやハンドリングを含むシャシー性能やブレーキが、一斉に新世代の高みを見せたことに対して、トランスミッションが凡庸だと言っているだけで、クラス平均から遅れを取っているとまでは言わない。マツダが見せてきたものに対する期待値の高さの表れであって、意図しているのは「まだやりようがあったでしょう」ということであり、そういう意味ではSKYACTIV-G 2.0を買った人は落胆までする必要はない。

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