吉本興業の謝罪会見が、壮絶にスベった理由スピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2019年07月23日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]
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会見で「家族」や「ファミリー」を繰り返す

 日大の「悪質タックル」をはじめ諸々のスポーツ不祥事でも分かるように、体育会は基本的に「パワハラ」で成り立っている。「上」が「下」に対して、きついしごき、どう喝、「愛のムチ」を振るうことで、組織は最強となり、個人の人間性も磨かれるという人材育成哲学があるのだ。

 こういう組織で育った人間がトップにつけば、「下」にパワハラをするのは当然だ。

 女子体操選手の横っ面を叩いて怒鳴り散らしたコーチが、「自分もそうやって指導されたので、それが当たり前だと思っていた」と述べたように、人は自分が「下」の時にやられたことを、「上」になった時に繰り返す生き物なのだ。

 しかし、こういう「体育会ノリ」にありがちなイキったおじさんのサムさもさることながら、個人的にあの会見で一番スベっていたのは、「家族」「ファミリー」「身内」という、今の吉本のイメージにそぐわないパワーワードをこれでもかと繰り返していた点だ。

 ブラック企業にお勤め経験のある方ならば分かるだろうが、ブラック企業ほど「オレたちは家族だ」とか「ファミリーは大事だ」とか言う。殴っても家族なので愛がある。パワハラをしても、愛があるので指導。これまで面倒見てきてやったじゃないかと言う恩を売って、暴力を正当化するのだ。

 契約書もない口約束で、ギャラは「搾取」といっていいほど低い。会社の方針に従わず、個人の権利として代理人弁護士を立てれば、お前はクビだ、引退せよと一方的にどう喝する。それを批判されると、「我々はファミリー」を繰り返す。

 ご本人たちにその意識が全くないところが逆に深刻だが、世間でいうところの「ブラック企業」の条件をほとんど満たしている。

 岡本社長は会見冒頭、反社と関係を断つためにコンプライアンスを徹底すると強調した。結構な話だが、その前にまずはご自分たちの組織カルチャーや、ビジネスモデルのコンプライアンスから見直すべきではないのか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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