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東京医大・入試女子差別問題の陰にちらつく「ゆるふわ女医」とはフリーランス女医が本音で斬る(4/4 ページ)

» 2019年07月24日 07時00分 公開
[筒井冨美ITmedia]
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激務望まぬ「ゆるふわ女医」

 私が医大に入学した昭和末期には、医療ドラマといえば『白い巨塔』のような男くさいドラマぐらいしかなかった。マスコミに登場する女医も、前に述べた宇宙飛行士の向井千秋先生のようなバリキャリ系しか見かけなかった。「女は要らない」「就職後○年間は妊娠禁止」と公言する教授も多かった。しかし、「『女は使えない』と言われないよう、頑張ろう」という覚悟を持って入学・就職した女医も、今より多かったように思う。

 現在では、各種ミスコンに入賞する女医やバラエティ番組で活躍するタレント女医は増える一方である。「医師夫と都心タワマンで暮らすセレブ女医」のようなメディア記事も多い。前章で紹介したように、17年には、就職早々に育休を取得しようとした若手女医に苦言を呈した管理職が、マタハラで処分される事件もあった。多くの大病院は公立病院なので、産育休時短に関してのコンプライアンスは遵守(じゅんしゅ)されるようになり、「女は要らない」発言も(表向きは)皆無になった。

 その結果、俗に「ゆるふわ女医」と呼ばれる、「医師免許取得後は、スキルを磨くよりも男性医師との婚活に励み、結婚出産後は昼間のローリスクな仕事を短時間だけ」「当直・手術・救急・地方勤務は一切いたしません」といった女医が目立つようになった。彼女らは「出産・育児の経験を医療に生かす」「患者に寄り添う」をセールストークにすることが多い。

 「女3人で男1人分」という東京医大関係者の発言が非難されているが、組織にぶら下がって「男の3分の1」レベルの仕事しか担わない「ゆるふわ女医」は実在し、残念ながら増加傾向にある。

 16年の厚労省の第二回医師需給分科会では、日本女医会会長の山本紘子先生が、「お惣菜医者」として、「週2回ぐらい午前中だけ働いてある程度の収入を得て、後の時間は自由に子供の教育や自分の趣味に使う女性医師」を紹介している。また、医師需給分科会では「女性医師は男性医師0.8人分」として医師マンパワーを計算しているが、山本先生は「実態としては(0.8より)少ない感じ」とも発言している。私も同感である。

 18年、東京医大の女性減点入試に関係して、あるメディアが女性医大受験生にインタビューを行った。

「どういう医師になりたいか」を訊(き)くと「女性医師が院内保育やパートなどの制度を活用していると知り、自分もそう働きたい」と、2浪中という予備校生が回答していた。医大合格すらしていない段階なのに「将来はパートで働く」と即答しており、「当直・手術・救急・僻地(へきち)勤務」というような用語は彼女の職業観にはなさそうだった。

「外科医になって留学したい」「故郷で開業して親孝行したい」「医学研究でノーベル賞を目指したい」……、私が受験生だった昭和末期には、「どういう医師になりたい?」と訊くと男女を問わずこのような夢を語る回答が多かったように思う。

 現在、医大を目指す女子学生の人生設計には、まずは最優先事項として、結婚出産育児がデフォルト設定されており、次いで世間体もよく短時間勤務でキラキラ輝くためのトッピングとして医師免許取得を目指しているのだなあ……と、医大入学以前の「ゆるふわ女医」宣言に、私は時代の変化をしみじみ感じてしまった。

 そして、「優れた医者になりたい」というよりも、「日本に残された数少ない既得権層に入る手段」として受験勉強に励んでいるような姿に、「なんだかなぁ……」という思いでいっぱいになった。

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