会社都合による転勤を廃止するというAIG損保の取り組みが大きな話題となっている。強制的な転勤は社員の負担が大きく、生産性にもマイナスの影響を及ぼしているといわれる。ただ、日本で強制的な転勤が続いてきたことには、それなりに理由がある。転勤がなくなるのは基本的に良いことだが、そのデメリットについても知っておく必要があるだろう。
保険会社のAIG損保が、会社都合による転勤を原則廃止する。業種にもよるが、従来の日本社会では、会社の命令で全国各地を転々とするのはごく当たり前のことだった。本人の都合は考慮されないことが多く、筆者もサラリーマン時代、ローンを組んでマンションを買った途端に転勤を命じられた同僚を何人も見てきた。
昭和や平成の時代までは、多くのサラリーマンがそういうものだと転勤を受け入れてきたが、ここ数年は状況が大きく変わっている。転勤に対して難色を示す社員が増えてくるとともに、就職活動を行う学生も、できるだけ転勤がない企業を選択する傾向が強まっているのだ。
2年ほど前、筆者は本コラムで、いわゆる一流大学を卒業したにもかかわらず、総合職ではなく一般職での入社を望む学生が増えているという話題を取り上げたことがある。実際、2017年における著名企業の採用実績を見ると、一般職の出身大学として慶應義塾大学、早稲田大学、上智大学といった名前を多数、見つけ出すことができる。一般職を希望する最大の理由は転勤である。
大企業の場合、総合職は常に転勤があるのが普通だが、一般職は地域限定で採用するケースが多く、そのような企業に一般職で入社できれば転勤はない。実際に、一般職として入社した人の多くは女子だが、男子学生でも一般職を希望する人が増えているという現実を考えると、転勤に対する負担感が大きくなっていることが推察される。
こうした動きを受けて企業側も対応を進めており、金融機関の中には地域限定社員の制度を導入したところもある。しかしながら地域限定社員は、転勤がない代わりに賃金や昇進などで、転勤のある社員とは区分されるケースが多く、出世を我慢する代わりに転勤がないというニュアンスが強かった。
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