だがAIGの場合、こうした別職種を導入するのではなく、転勤制度そのものを廃止するので、日本企業としては画期的な取り組みといってよい。同社は、他の保険会社と同様、多くの社員が3〜5年ごとに全国を異動していたが、2021年までに全員が原則として好きな地域で働くことができ、本人が望まない限り、転勤がなくなるという。
もっとも、各社員の希望が特定の地域に集中し、全員の希望を等しく反映できない可能性もある。この点についてAIGでは、希望以外の場所で勤務する人には手当を上乗せするといった措置で対処する方針だという。
転勤の廃止を打ち出したところ、同社への就職希望者が10倍に増えたとのことなので、人材獲得という点に限って言えば100点満点の大成功といってよいだろう。
転勤がなくなることは多くのサラリーマンにとって朗報であり、この制度が一気に各社に広がっていくと考えたいところだが、そうはいかない事情がある。転勤制度の廃止が簡単でない理由は、なぜ強制転勤が存在していたのかについて考えればおのずとハッキリしてくる。
多くの人がうすうす感じているとは思うが、強制的な転勤の背景となってきたのは終身雇用制度である。
日本型の雇用制度では、企業は社員を解雇せず、定年まで雇用することが義務付けられている。しかも賃金体系は年功序列なので、勤続年数が長いほど年収も多い。つまり日本企業は常に人件費が過大になるという要因を抱えているといってよい。
企業のビジネスモデルが変化せず、事業規模が拡大している時代であればこの制度もうまく機能するが、ビジネス環境が何十年も変わらないというのは通常、あり得ないことである。時代とともにビジネス領域や活動地域は変化してくる。
諸外国の企業であれば、新しい事業領域や地域において社員を新規採用し、撤退する領域や地域では解雇するのが普通なので、人材は常に入れ替わる。ところが日本では、常に同じメンバーで新しいビジネス領域や地域に対応する必要があるため、社員を異動させるのは必然という結果になる。極論すれば、日本で強制的な転勤が受忍されてきたのは、全て終身雇用制度を維持するためだったといっても過言ではない。
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