クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

新型タントデビュー DNGAって一体なんだ?(前編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2019年08月05日 07時06分 公開
[池田直渡ITmedia]

 では、トヨタはインドとASEANのマーケットをなぜ自社ブランドで取りに行かないのか? という疑問が出るだろうが、トヨタの弱点は、小型車におけるコストパフォーマンスだ。新興国で最も求められる「良品廉価」という競争軸では全く勝てる見込みがない。

 そこに悩みがあるからこそ、トヨタから見ると、「良品廉価」を当たり前にやってのけているダイハツとスズキの芝生が、本当に青々として見えるのだ。ダイハツの100%子会社化に際して、トヨタの豊田章男社長は慎重に言葉を選びつつも、トヨタは小型車作りについてダイハツに及ばない。教えを請う立場であると語った。その発言を深刻に受けたトヨタコンパクトカーカンパニーの幹部は「われわれは失業したことを認めなければならない」と語り、後に筆者がインタビューした時、「我々はどうしてもフォルクスワーゲンと戦うマーケットを見てしまう。軽の直上に位置する、庶民のための実直な道具というところにずっとフォーカスし続けているところが、ダイハツの強みだと思います」と述べた。

 クルマの販売は「ものさえ良ければ売れる」ほど簡単ではない。例えばスズキはインドで、地方販売網を開拓していくに当たって、地域の部族長の家に酒を携えて通い、認めてもらうところから始めた。そういうドブ板的世界から人脈地脈を積み上げて販売網ができるのだ。

 すでに競争が激化しているインドとASEANに対して、トヨタが今から良品廉価を学び、ドブ板を巡って信頼を作り始めても間に合わない。だから、どうしてもASEANのエキスパートであるダイハツと、インドのエキスパートであるスズキが欲しかった。それがトヨタアライアンスのアジア戦略の背景であり、全てはその理解の上に構築される。

ダイハツとトヨタのセグメントごとの役割分担(ダイハツ資料より)

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