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田坂広志が社会人1年目に味わった絶望感――逆境を越えられた理由は「研究者視点」と「心の師匠」知の賢人・田坂広志が語るキャリア論【前編】(2/6 ページ)

» 2019年08月06日 05時00分 公開
[小林義崇ITmedia]
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エレベーターが閉まる瞬間に見える「厳しい表情」

――仕事を研究するとは、具体的にどういったことなのでしょうか。

 「研究」においてまず大切なことは、「観察」することです。ですから、私はとにかく上司や先輩の仕事を観察し、顧客とのやりとりを観察することから始めました。

 例えば、顧客との商談が終わると、エレベーターまで見送ってもらうことがあります。このとき、お客さまは、笑顔で見送ってくれるのですが、エレベーターが閉まる瞬間にドアの隙間からお客さまを見ると、厳しい表情に変わっているときがあります。そういうときは、先ほどまでの商談を振り返り、「何か気分を害されることがあったのだろうか」「こちらの提案に満足いただけなかったのだろうか」「当方の提示したコストが高すぎるのだろうか」などと、いろいろな角度から反省をするのです。そして、次にどのような手を打つかを考えるのです。

 すなわち、先ほどの商談や会合で起こった出来事を振り返り、さまざまな視点から反省するのです。この「反省」を習慣にし、「反省の技法」を身につけることで、日々の仕事の“経験”を“体験”にまで深めることができます。このことは、拙著『能力を磨く――AI時代に活躍する人材「3つの能力」』(日本実業出版社)にも書きましたが、仕事の“経験”から“智恵”をつかみ、成長していくためには、この「反省の技法」が欠かせません。

 当時、私は一日の仕事が終わった夜に、「反省日記」をつけ、一日の仕事の振り返りをしていました。例えば、「あそこで先方の課長が首をかしげたのは、技術説明が分かりにくかったからではないか、あの場面は、お客さまの立場に立って、もっと丁寧に説明をすべきではなかったか……」といったことを書き、その反省を、次の仕事に生かそうとしていたのです。

 その経験から言えば、世の中のビジネスパーソンは、あまり仕事を「研究」していないように見えます。毎日、それなりに仕事の経験は積み重ねているのですが、「研究」という視点を持たないため、「反省」をする習慣が身につかず、せっかくの“経験”が“体験”にまで深まっていないのです。しかし、営業の仕事でも、どのような仕事でも、本気で研究をし、反省をすれば、非常に奥が深く、多くの学びがある世界なのですね。

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