#SHIFT

田坂広志が社会人1年目に味わった絶望感――逆境を越えられた理由は「研究者視点」と「心の師匠」知の賢人・田坂広志が語るキャリア論【前編】(4/6 ページ)

» 2019年08月06日 05時00分 公開
[小林義崇ITmedia]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

好き嫌いは意思で決められる

――時には、どうしても好きになれない上司に巡り会うこともあると思いますが、そのときは、どのように処すべきなのでしょうか。

 世の中では、好き嫌いは“感情”の問題だと思われていますが、実はそうではありません。ビジネスの世界で道を拓(ひら)きたければ、好き嫌いは“意志”によってコントロールできることに気付く必要があります。

 そのことは、私が社会人になったばかりの頃に教えられました。それは、当時の人事部長から教えられたのですが、この人事部長は人間力のある人だったのでしょう、私たち新入社員に、こう語ったのです。

 「君たちは、明日から現場に配属になるが、ひとつだけアドバイスをしておこう。職場に着任したら、周りを見回して、一番虫が好かない人、一番ウマが合わない人を見つけなさい」

 人事部長は、そう語ったのです。そして、次の一言が胸に響きました。

 「その人を見つけたら、その人を、好きになりなさい!」

 そう締めくくったのです。

 その通り。人間関係を良くする究極の方法は、相手を好きになることなのです。ところが昨今の人間関係論は“操作主義”に陥る傾向があり、表面的な対人テクニックばかりが強調されます。しかし、本来、最も大切なことは“心の姿勢”です。「相手を好きになろう」という心の姿勢さえあれば、自然に良い人間関係が生まれてくるものです。

 「相手を好きになろう」と考えて接すると、最初は“嫌なところ”が目につきますが、徐々に、相手の“憎めないところ”に気が付き始めます。そして、少しずつ、相手を“好き”になっていけます。今どき、「嫌いな相手を好きになる」といった心の技法がビジネス誌などで取り上げられることはありませんが、昔も今も変わらず、それは大切な技法と思います。

 そもそも、自らの意志で相手を好きになれなければ、営業の仕事などはやっていけないでしょう。顧客を嫌いなまま営業の仕事をすると、必ず「面従腹背」的な営業になってしまい、そうした裏表のある心の姿勢は、必ず顧客に伝わるからです。そして、営業に限らずどの分野でも、良い仕事をするためには「人を好きになる」ことは非常に大切なことです。

――人を好きになることを望んでも、それを実行するのは難しいと思いますが、何か「心の技法」のようなものがあるのでしょうか。

 まず意識すべきは、絶対に陰でその人の悪口を言わないことです。そして、できれば、少し無理をしてでも陰でその人を褒めることです。なぜなら、“言葉”というものは、自分の心の傾向を強化する怖い性質があるからです。つまり、その人の悪口を誰かに言ってしまうと、心のどこかで「ああ、自分はあの人の悪口を言ってしまった……」という自分を責める思いが深層意識に生まれます。すると、逆に、その自分の罪悪感を打ち消し、自分を正当化するために、その人の欠点をさらに探そうとする方向に心が動きます。そして、実際にその人が別の欠点を見せると、「やはり思った通りだ」という思いとともに、ますますその人に対する“嫌悪感”が強まっていきます。それは、まさに悪循環です。

 その逆に、“好きになれない人”であっても、あえて陰で口に出して褒めてみるようにすると、心というものは不思議なもので、好循環が生まれます。例えば、同僚で集まって、みんなが上司の悪口を言っているようなとき、「もしかしたら、あれが、○○さんの“”優しさ“なのかもしれないね……」と言ってみる。すると、なぜか、心がポジティブになっていきます。そして、そうした自分の心の変化が、周りにもポジティブな雰囲気を広げるときもあるのです。

photo

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.