クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

400万円オーバーのBセグメント DS3クロスバック池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2019年08月19日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 こうした自動車史の中で、ブランド確立史という観点で見ればジャガーの例が面白い。もともとサイドカーメーカーとして創業したジャガーが、20年代成立の新参ブランドとして取った最初の戦略は、デザインや内外装の素材品質に際しては当時のブランド品であったベントレーなどを模し、メカニカルには英国の量産大衆車メーカー「スタンダード」のパーツを利用する方法だった。

 要するに「かっこよくて高級感があるのに安い。ただし性能がファミリーカー並みなのは安いのだから許してね」という商品だった。こうした狙いが当たって人気を博したジャガーは、次のステップとして本当に高性能なモデルを追加して、ブランドをシフトしていく。

 商業的にはある程度成功したジャガーだが、もともとがコピー商品からスタートしただけに、そのイメージを一掃するのは一筋縄ではいかなかった。戦後になって、ジャガーはブランド認知が緩い米国へと主戦場を移していく。

 ビジネスコアを「高級っぽいのに安価」から「高性能なのに安価」にスライドさせながら「XK120」を大ヒットさせる。面白いのは、ここでもジャガーはブランドイメージを戦略的に作り上げていった点だ。日本に置き換えれば、「フジヤマ」「ゲイシャ」的な外から見た自国のイメージを上手く利用して、アメリカ人がイメージする「英国らしさ」を大げさに演出してみせたのだ。

米国で成功を収め、のちのジャガーの礎を築いたXK120(Wikipedia Thomas doerfer https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Jaguar_XK_120_beige.JPG

 こうしてビジネス的にさらなる成功を得て、ジャガーの創業者であるウィリアム・ライオンズは、英国王室から外貨獲得の功績で叙勲を受け「サー」の称号を手にいれる。しかしながら、ジャガーが英国内で本当の意味でブランド価値を確立したのは、高級車ブランドのデイムラーを顧客ごと吸収してからだ。

 余談ついでにいえば、このデイムラーは、ドイツのダイムラーの英国読みで、ダイムラー製のエンジンをモーターボート用として売るための英国現地法人からスタートし、自動車生産への進出に際しては、ダイムラーのエンジンにフランスの高級車であるパナールの車体など組み合わせて、独仏高級車混交で成立したブランドだ。

 この長い前振りで何がいいたいかといえば、ジャガーの例は、自動車メーカーとして、経営側が人為的に高級車ブランドを構築していったおそらく最初の例であり、ブランドイメージ・コントロールの成功例であるということだ。

 しかし一方で、ジャガーブランドを自力で本当のプレミアムブランドへと押し上げることは遂にかなわず、最終的には既存の高級ブランドとそのブランドが持つプレミアム顧客の吸収という手段によってなされたというところがポイントである。

 ちなみに成功に至っているかどうかは見方によるだろうが、直近の例でいえば、トヨタをベースに高級ブランドを立ち上げたレクサスがある。レクサスの場合、大衆車メーカーとしてのトヨタが本当に自力で長い坂道をえっこらやっこらとブランド価値を押し上げているという意味で、よりピュアな形ではあるけれど、それゆえジャンプアップもまた難しい。

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