クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

400万円オーバーのBセグメント DS3クロスバック池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2019年08月19日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

小さな高級車

 さてDSは2010年代という、技術もマーケティングも高度に発達した時代にこれに挑もうとしている。そこは大変興味深い。パワートレインやシャシーに関しては、さまざまな安全・環境規制でがんじがらめになっているので、とてつもなく開発コストがかかり、台数の知れたDSのためにわざわざ専用に作り起こすことなど常識的に不可能である。となれば、グループPSAが持つ既存のプラットフォームから捻出するしかない。

 しかしながらPSAにはそもそも大型のプラットフォームの手持ちがない。高級車を、小型大衆車のシャシーから作り出さなければならないというジレンマを抱えている。

1955年にシトロエンが発表したアバンギャルドな前輪駆動車のDS。かつてド・ゴール大統領の公用車としても使われた。このモデルの名前から派生したのがDSオートモビル

 という中で、目下DSに最も勝ち目があるのは昔から多くの人が夢見てきた「小さな高級車」というジャンルである。バンデン・プラ・プリンセスやルノー5バカラ、ランチア・イプシロンなどの先例があるが、どれも一過性の商品で終わっている。

 1500万円のBセグメントを一定数販売できるとしたら、本当に高級な仕掛けを用いて小型車を作ることは可能かもしれない。しかし、顧客の側はベンツのSクラスと同じ対価をヴィッツサイズのクルマに払うとは考えにくいし、技術的にも高級で複雑なメカニズムはスペースを食うため、小型車にまとめあげるのはなかなか難しい。だからこそプレミアムセグメントが明確に成立し、長期継続しているのは、現状プレミアムDセグメント、つまりベンツのCクラスやBMWの3シリーズ、アウディA4あたりまで、そこが今の限界線になっている。

 それより小さいクルマにも確かにプレミアムはある。代表例としてはミニだが、継続的にプレミアムであり続けられるかどうかはまだしばらく観察が必要だろう。

 いずれにしてもDセグメントを境にして、高級なメカニズムは投入しにくくなる。その壁が越えられないからこそ、過去の小さな高級車は大衆小型車をベースにしながら、内外装に贅(ぜい)を凝らすというレベルに止まらざるを得なかった。

 そういう商品で何を狙うのかといえば、ジャガーの例を挙げるまでもなく、ブランド認知の緩い地域、今の時代でいえばおそらくそれは中国になるだろうが、ここで上手く評価を上げ、ブランド価値の逆輸入をするというのが最良の青写真となるだろう。

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