――多重下請けは、働いている人にはどんなデメリットがあるのでしょうか。
1番のデメリットはやはり賃金が低くなることですね。間に入る会社が多くなれば、労務管理費でどんどん抜かれますから。
――多重下請けを止める方法はないのでしょうか。
派遣法と同じように、法で縛ればいいと思います。派遣法は二重派遣を含め、さまざまなことを禁止してきました。ただ、派遣で働く人の数は140万人くらいです。全労働者に対して非常に比率は低いのですが、時折フォーカスが当たって悪者扱いされたために法規制が進んだといえます。これはこれでどうかと思いますけど。それでも偽装請負は、法規制によってIT業界でも確実に減りましたから、多重下請けも本気で法整備をしようと思えばできると思いますよ。
――法整備をしていないのは、国が問題意識を持っていないということでしょうか。
メディアなどで「IT業界はブラックだ」と取り上げられることがありますが、具体的にどの会社がブラックだいう具体名は出てこないですよね。ソフトハウスで100時間残業していても、外からは分からないからです。
国は具体的な問題が起きるなど、きっかけがないと動きません。リーマンショックの時は賃金が下がったので副業を解禁し、電通の社員が自死した違法残業事件が起きると、働き方改革だといって45時間以上の残業を禁止しました。結局この国には方針がないのだと思います。いつも行き当たりばったりになっていると感じます。
――自主的に改善されないという意味では、IT業界自体にも問題はないですか。
一つの見方ですが、IT業界は会社そのものが若いところが多いですよね。会社が若いとベテラン社員がいませんので、コンプライアンスや労務管理の意識が薄くなる可能性があります。設立して数年でなくなる会社も多いですから、官公庁も追いかけきれていないのではないでしょうか。
――IT業界の人材不足の問題を解決しないと、今後も「7pay」と同じような問題が起きる可能性がありますか。
当然あると思います。私はいまの日本の教育や、若年層に対する人材育成の取り組みは、どんどん間違った方向に進んでいると感じています。
教育では、2020年から小学校でプログラミングの授業が始まりますが、彼らが社会に出てくるのは10年後です。10年も経つと技術も大きく進んでいるので、対応には限界があると思っています。それと、強く疑問を感じているのは、いまの就職活動の在り方ですね。
――就職活動の解禁日を巡る問題でしょうか。
来年卒業する大学生の就職活動解禁日は、今年の3月1日でした。しかし、実際にはどんどん前倒しになっています。今の大学生は2年生や3年生でインターンに行って、企業と接触して、内定をもらう流れが当たり前です。本当に入りたい企業ならいいと思いますが、なぜそんなに急ぐのだろうかと思いますね。
――甲賀社長が大学生の頃は、4年生になってから内定が出ていましたよね。
そもそも卒論も書き始めていない学生に内定を出すことは、悪い言い方をすれば、学業なんかどうでもいいということです。就職活動の期間が長くなることで、学業だけでなく、学生時代ならではの経験や、仲間づくりもできなくなります。いまの大学は、就職のための予備校のようです。
就職活動に関して、最近さらに危険な状態になっていると思うこともあります。ソニーやユニクロ、くら寿司などが、年収の高い新入社員の採用を始めましたよね。
――ソニーはAI人材の初年度の年収を最高730万円に、ユニクロのファーストリテイリングはグローバルリーダー社員の初任給を上げて、完全実力主義の賃金にします。くら寿司は初年度から年収が約1000万円になる幹部候補生を約10人募集しています。
この動きが始まるとどうなるのかなと考えると、そういう会社を目指す学生が増えますよね。その際に必要になるのは学業ではなくて、それぞれの企業のニーズとマッチしたビジネススキルです。学生がそういうことばかりに特化した4年間を過ごしてしまいます。本当にそれでいいのかなと疑問に感じます。
さらに言えば、就職活動に長い時間をかけて入社したのに、3割の人が3年で離職をしている現実があります。結局答えは出なかったということです。逆に言うと、無駄だったということですよ。それならば、学生時代はそんな時間の過ごし方をしないで、一所懸命学業に徹したほうが、将来につながるのではないでしょうか。そこで私たちは、就職活動の在り方を変えたいと、新しい採用の取り組みを始めました。
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