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働き方改革の旗手、白河桃子と沢渡あまねが対談! ――会社を滅ぼす「仕事ごっこ」をやめる方法“昭和の常識”が会社を滅ぼす(4/4 ページ)

» 2019年09月05日 08時00分 公開
[やつづかえりITmedia]
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「過剰な成果主義」は組織を不健康にする

白河: モチベーションを上げるには、時間の創出もすごく重要だと思っています。仕事の中には、あまり差別化のしようがなくてモチベーションが上がりにくいものもありますよね。

 例えば、薬はどこの調剤薬局で買っても一緒です。ですが、ある調剤薬局さんでは、仕事の無駄を排してちゃんと休みを取れるようにしたら、みんなが薬剤師以外の資格も取ったり、自分で付加価値をあげて、やりがいを創出していったそうです。

 例えば、健康管理士の資格をとって、地域のお客さんの健康のために料理教室をやるようになったり――というように、新しい動きが生まれています。目の前にある仕事だけがやりがいを作るんじゃなくて、ひとり一人に時間ができれば、自分で新しいやりがいを作れるんだな、と感じました。

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沢渡: 目の前の仕事だけに振り回されず、中長期を見据えた投資ができるか、ということですよね。それこそがマネジメントです。目先の仕事をこなすだけだったら猿でもできます。あななたち、猿なんですか? という話なんです。

白河: みんな、よく聞けば、やりたいことはあるんだけど、それをやる余裕がないからしまい込んじゃっているんですよね。もったいないなと。ある会社で講演とワークショップをしたときに「今、時間ができたらやりたいこと」から話してもらったんですよ。そうしたら「子どもが英語を頑張っているから、自分も英語で営業ができるように勉強したい」というお父さんがいたり、いろいろな希望がありました。

沢渡: そうです。ぜひ言っておきたいのは、過剰な成果主義というのは組織を不健康にする――ということです。働き方改革というときに、”成果”よりも”変化”を言語化してほしいんですよね。「この仕事をやめてみたら、ちょっと楽になったね」ということを現場で言語化すると、それが共感になり、ファンが増えていきますよね。トップが言ってもいい。

 「IT使ったら、こんなにやりやすくなったよ」とかどんどん発信して欲しいですね。「そういうことやっていいんだ」「やめていいんだ」というチャレンジの風土を生むには、成果を数値で表すのも大事だけれど、同時に変化を言語化すること、それをぜひやってほしいです。

白河: 「働き方改革ですぐに生産性が上がりました!」みたいな、そんな単純な話ではありませんからね。

沢渡: そうそう。さらに言えば、コストにしろ時間にしろ「削減」というのはモチベーションを下げ、エンゲージメントも下げます。だから、削減するところはするけれど、生まれた余白を雑談に使うなり、新しい何かをやってみるなり、投資に使わなければなりません。それに対して投資家や株主が文句を言うなら「黙れ」と。「当社が中長期的に目指すのはこうだから、ここに投資するんだ」と言うべきです。これがIRであり、広報によるファンづくりなんですよ。

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白河: 今って、会社を変えるのにちょうどよい口実がたくさんあるんですよ。まずは働き方改革、それからSDGs(持続可能な開発目標)にESG投資(環境や社会、ガバナンスの要素も考慮した投資)。みんな投資の理由にできます。「働き方改革なんてさぁ」なんて斜に構えてないで、こういうパワーワードをうまく使ってほしいですね。

沢渡: リモートワークなんかも、CSR(企業の社会的責任)やCSV(共有価値の創造)の文脈でやったらいいと思うんですよ。朝の満員電車を自社の社員、それもスーツとネクタイの暑苦しい人たちに占拠させるのって、社会的に褒められたことじゃないでしょう?

 その人たちがいなければ、本当に必要な人たちが座って乗れるはずです。CSRやCSVの予算でうまくやるとか、広報の材料にするとか、いろいろな部署が連携して進めていくことで、世の中はもっとヘルシーになっていくと思います。

白河: サプライチェーン全体で話し合っていく必要もあります。下請け、二次請け、三次請け……みたいな構造がある業界こそ、一緒に変えていかないと。

沢渡: そこは大事。リアルは下流にありますからね。

白河: 働き方改革で、最近は上流は水がきれいになってきていますけど、下流に問題があることが多いです。大手メーカーの下請けの企業に行くと、しわ寄せで疲弊しきっている。

沢渡: 私は自分が大好きなダムで説明するんですよ。どんなに立派なダムを作っても、その後の監視とか管理ができていなければ、下流はドロドロになるって話です。

白河: さすが!

沢渡: そこはやっぱり上流の側の意識が重要で、なるべく現場に行っていわゆる二次請け、三次請けの人たちと同じ景色を見るとか、現場が言ってくれたことをきちんと受け止めて対応をするとかは、とても大事なことだと思うんです。これをやっていくと、組織の壁を超えて一体感が生まれてきます。私も大手SIer勤務時代は、変人扱いされながらもシステム運用の現場で「同じ釜の飯」を食いともに過ごす経験を、自ら志願してしました。この経験はいまでも宝です。

白河: 下請けの人も、せっかく働き方改革というパワーワードがあるのだから、うまく利用したらいいと思います。「うちは働き方改革でルールが厳しくて、その納期では難しいんですよね」みたいに言えば、上流の人も察するでしょう。言わないと気づいてもらえません。

沢渡: 「働き方改革」という言葉が大きすぎるので、それぞれ自分たちのテーマを決めて、それを追求することが「仕事ごっこ」をなくすことにつながるはずです。

 例えば研究部門なら、「研究部門なのに研究の時間が取れていない。研究者として成長できていない。これどうなの?」というテーマでもいいと思うんですよね。企業のトップであれば、自社のブランド戦略をどうしていくのか、利益の出るビジネスモデルはなにか、そんなことかもしれません。

 層が違えばテーマの大きさは違うのは当然ですから、まずは自分たちのレベルで改善テーマなり成長テーマなりをきちんと言語化し、それを解決するために「仕事ごっこ」まみれの仕事の仕方を変えていく。そこから風穴が開いていくはずです。

白河: まずは足元から変えていきましょう――ということですよね。私もいつも「まずは自分の人生を考えましょう」という話をしています。自分の大事な時間をどのように使って、どのくらいお金をもらって、どういうふうに生きていきたいのか、それを個人で考えるのがものすごく大事です。

 その結果、会社を離れることになってもいいと思うんです。働き方改革関連の仕事をしていると、「自分の会社の定時を知りませんでした」とか「自分の労働時間なんて考えたこともありませんでした」という人がすごくたくさんいるんですよ。別に「定時に帰れ」ということではなくて、「時間というものが有限である」と知って、「その使い方を考える」ことがすごく大事だと思います。

沢渡: それぞれの層で、「自分の働き方がヘルシーかどうか」を自問してほしいですね。通勤ラッシュに耐え続けることとか、つらい仕事をし続けることが、自分にとって、お客さんにとって、次世代にとって、社会にとって、良いことなのか――。

 『仕事ごっこ』を童話形式にしたのもそうなんですけど、もっと楽しむことや、気持ちがいいことに素直になったらいいと思うんです。エンターテインメントは立派なソリューションなので、それを真面目に取り入れていくという発想が、もっとあってもいいですよね。

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