台風15号の朝、「振り替え輸送」が実施されなかった理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
9月9日の朝に振り替え輸送が行われなかった理由は2つ。運行再開した鉄道会社が、近隣他社からの振り替え輸送要請を断った。あるいは、断られることを見越して、不通となった鉄道会社が近隣他社に振り替え輸送を依頼しなかった。
あの日の状況では、どちらも正解だった。何しろ、ほぼ全ての鉄道会社が運行再開できていない。振り替え輸送を案内したところで、振り替え先も止まっていれば、乗客は目的地にたどり着けない。
もし、近隣に運行再開できた鉄道路線があったとしよう。ここで振り替え輸送を認めてしまうと、周辺の広範囲の鉄道利用客が殺到し、大混乱が予想された。乗車率は300パーセント近くなり、体調を崩す人もいるだろう。プラットホームは電車に乗れなかった人々であふれる。駅の入場制限をすれば、その行列は伸び、道路交通を妨げ、ルートによっては踏切に達して新たな輸送障害の原因になりかねない。
そのような状態が予見されるから、安全管理者は振り替え輸送を受諾しない。
営業面ではどうか。振り替え輸送が実施されると、ライバルだった並行路線から乗客が集まる。その運賃は運休した会社から支払われる。つまり増収のチャンス、というわけだ。しかし、安全管理者はお金を積んだところで首をタテに振らない。振り替え輸送が原因で事故を発生させるわけにはいかない。損害のほうがはるかに大きい。
午前8時の段階で、西武鉄道が最も早く運行を再開していた。しかし、西武鉄道は振り替え輸送を受諾していない。これは乗客殺到を予見し安全を優先したためだ。自社沿線の乗客だけではなく、自費で西武鉄道へ迂回する乗客も含めた安全である。公共交通機関の安全管理者は、安全面については絶対的な権限を与えられている。社長や株主が乗せろと言っても乗せない。それをとがめられることがあってはならない。
- 東京圏主要区間「混雑率200%未満」のウソ
お盆休みが終わり、帰省先から首都圏に人々が帰ってきた。満員の通勤通学電車も復活した。国も鉄道会社も混雑対策は手詰まり。そもそも混雑の認定基準が現状に見合っていないから、何をやっても成功できそうにない。その原因の1つが現状認識の誤りだ。
- 新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」
所要時間が4時間以内なら飛行機より新幹線が選ばれるとされる「4時間の壁」。それよりも「1万円の壁」を越えるべき、というコラムが話題になったが、新幹線の“壁”は他にもある。航空業界と比べて大きな差がある、予約開始「1カ月前」の壁だ。
- がっかりだった自動運転バスが新たに示した“3つの答え”
小田急電鉄などが手掛ける自動運転バスの2回目の実証実験が行われた。1年前の前回はがっかりしたが、今回は課題に対する現実的な解決策を提示してくれた。大きなポイントは3つ。「道路設備との連携」「遠隔操作」「車掌乗務」だ。
- 「びゅうプラザ終了」で困る人はいない “非実在高齢者”という幻想
JR東日本の「びゅうプラザ終了」報道で「高齢者が困る」という声が上がっている。しかし、そのほとんどが当事者による発言ではない。“非実在高齢者”像を作り上げているだけではないか。実際には、旅行商品や乗車券を手にする手段もサポートもたくさんある。
- 着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」
リニア中央新幹線の2027年開業を目指し、JR東海は建設工事を進めている。しかし、静岡県が「待った」をかけた形になっている。これまでの経緯や静岡県の意見書を見ると、リニアに反対しているわけではない。経済問題ではなく「環境問題」だ。
- こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.