9月9日の朝に振り替え輸送が行われなかった理由は2つ。運行再開した鉄道会社が、近隣他社からの振り替え輸送要請を断った。あるいは、断られることを見越して、不通となった鉄道会社が近隣他社に振り替え輸送を依頼しなかった。
あの日の状況では、どちらも正解だった。何しろ、ほぼ全ての鉄道会社が運行再開できていない。振り替え輸送を案内したところで、振り替え先も止まっていれば、乗客は目的地にたどり着けない。
もし、近隣に運行再開できた鉄道路線があったとしよう。ここで振り替え輸送を認めてしまうと、周辺の広範囲の鉄道利用客が殺到し、大混乱が予想された。乗車率は300パーセント近くなり、体調を崩す人もいるだろう。プラットホームは電車に乗れなかった人々であふれる。駅の入場制限をすれば、その行列は伸び、道路交通を妨げ、ルートによっては踏切に達して新たな輸送障害の原因になりかねない。
そのような状態が予見されるから、安全管理者は振り替え輸送を受諾しない。
営業面ではどうか。振り替え輸送が実施されると、ライバルだった並行路線から乗客が集まる。その運賃は運休した会社から支払われる。つまり増収のチャンス、というわけだ。しかし、安全管理者はお金を積んだところで首をタテに振らない。振り替え輸送が原因で事故を発生させるわけにはいかない。損害のほうがはるかに大きい。
午前8時の段階で、西武鉄道が最も早く運行を再開していた。しかし、西武鉄道は振り替え輸送を受諾していない。これは乗客殺到を予見し安全を優先したためだ。自社沿線の乗客だけではなく、自費で西武鉄道へ迂回する乗客も含めた安全である。公共交通機関の安全管理者は、安全面については絶対的な権限を与えられている。社長や株主が乗せろと言っても乗せない。それをとがめられることがあってはならない。
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