クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

スバルとトヨタ、資本提携強化でどうなるのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2019年09月30日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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スバルはアライアンスに何をもたらすのか?

 こうしたトヨタの強みを共有できるという意味で、各社がアライアンスに応じる意味はよく分かる。

 では逆はどうだろうか? マツダの場合は分かりやすい。マツダが取り組んできたコモンアーキテクチャー開発を見てトヨタは衝撃を受け、マツダとの提携を決めた。少ないリソースでいかに早く開発を進め、レベルの高い製品を生み出すかという点について、トヨタはマツダに学べる点があった。これはトヨタの豊田章男社長自身がスピーチにおいて何度も触れている。

 スズキに関しては、インドマーケットでの先行者利益が大きいだろう。成長著しいインドマーケットではスズキがインド政府と一体になって、産業振興を図ってきた。長年積み重ねられた信頼は大きい。しかし同時にそのマーケットの成長速度についていくには、スズキ単独では資本も技術も間に合わない。例えばCセグメント以上に向けたHVシステムなどは、スズキがこれから単独で開発を進めるよりもトヨタの手を借りた方が早いし、続伸する販売台数に応える工場と販売店の拡充に、トヨタマネーが後押しする意味は大きい。そしてそれは同時にトヨタ本体がインドへ橋頭堡(きょうとうほ)を築くことにもつながる。しかもインドの地政学的価値を考えれば、次々世代と目されるアフリカマーケットの生産拠点としても有望だ。

 ダイハツは、スズキに近い。ASEANですでに多くの信頼を得ており、インドに次ぐといわれるマーケットにすでにリーチしている。マーケットとして特に期待されているのはインドネシアとベトナムだ。技術面から見れば、トヨタが苦手としてきた小型車作りのノウハウが大きい。トヨタの小型車は価格競争力に劣り、価格に縛りをかけた上で良いものを作るという点については、長らく良品廉価を標榜してきたダイハツが上だ。しかも100%子会社になったことで、さまざまなことがやりやすくなった。

 ダイハツは今後、トヨタの新興国向け小型車を一手に担うことになる。100%子会社であればトヨタブランドで苦手な勝負をするより、任せてしまった方がいい。そして今、トヨタは懸命にダイハツの良品廉価の秘密を研究している。あるトヨタ幹部は「驚愕(きょうがく)の連続です」と語った。そのノウハウはやがてトヨタの自家薬籠中のものになっていくだろう。

 さて、こういう各社のアライアンスの中で、スバルは何を提供するのか? すでにフラット4とトヨタのHVシステムTHS2を組み合わせたクルマの拡大を発表しているが、それはアライアンスから得るものであって、与えるものではない。HVもやがてはエンジンとHVシステムのトータル効率が問われていく。トヨタのダイナミックフォースエンジンはすでにエンジン単体熱効率41%を達成しており、それにフラット4で挑むのはどうあがいても不可能だ。よってCAFE規制時代の今、フラット4+HVが他社に採用されるとは思えない。

スバルの未来を大きく左右するであろうタイミングで登板することになった、中村知美社長

 リリースにもある通り、一つは、AWDシステムが挙がるだろう。トヨタは現在HVのAWDシステムを持っていない。あるのはリヤを別モーターで駆動するE-Fourと呼ばれるシステムだけで、いってみれば簡易型だ。つまりTHSのための本格AWDシステムはトヨタのみならず、アライアンス全体にとって重要なリソースになり得るだろう。

 しかしそれは目先の数年の話でしかなく、ただAWDシステムを開発するだけならば技術提携だけで十分。資本の領域に踏み込む必要はないし、長期的にアライアンス最恵国待遇を得た責任を果たした、と胸を張るには少々弱い。もっとアライアンス全体に継続的に寄与できる手土産が必要だ。そこを頑張らないとアライアンスの味噌っかすになってしまう。

 トヨタは今、アライアンス傘下のメーカーに対して、上から支配して要求するようなことをしない。ダイハツとの提携の時、豊田社長に聞いたことがある。「ダイハツに何を求めるんですか?」。その答えはこうだった。「それはダイハツさんが決めることです。やりたいことが明確になれば援助は惜しみませんが、こちらがああしろ、こうしろということではありません」

 スバルは今、アライアンスに何をもたらせるのか? それを考えるのがスバルに与えられた課題であり、それこそがスバルの核心的価値になるだろう。スバルの価値とは何か、いまそれがアライアンス各社から注視されているのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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