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» 2019年10月08日 05時00分 公開

現地取材で覚えた「違和感」:静岡県知事の「リニア妨害」 県内からも不満噴出の衝撃【後編】 (4/5)

[河崎貴一,ITmedia]

大井川から山梨県側に放流されている毎秒5トンの水

 川勝知事は、JR東海の南アルプストンネル静岡工区の湧水について「全量戻すこと」「一滴たりとも失うことがあってはならない」と主張して一歩も譲らない。

 さらに、JR東海が環境影響評価準備書に記した「毎秒2t(トン)」の水量について、川勝知事は県民62万人の「命の水」と喧伝(けんでん)する。その水量については、前述したように、JR東海は「最大で毎秒2t減水と予測」した数値であり、それも「覆工コンクリート等がない条件」での話だ。大井川水系で、常時、毎秒2tの水が減るわけではない。

 それほど「毎秒2tの水」は大切にする一方で、川勝知事が「黙して語らない」大量の水がある。

「黙して語らない」大量の水

 静岡県議会で川勝知事の矛盾を追及した桜井勝郎県議は話す。

 ちなみに桜井県議は無所属で、リニア中央新幹線に対しては、「賛成でも反対でもない」立場を取っている。

 「川勝知事は、大井川下流域の藤枝市や焼津市で汲(く)み上げている地下水が減ると、住民が生活に困ると指摘します。しかし、JR東海は、トンネルで発生した湧水は導水路トンネルで大井川に戻すと言っています。それを実行すれば、下流域の水資源利用に問題はないはずです」

 そして、水問題の根幹に触れるダムの話をした。

 「トンネル工事で最大で毎秒2tの水が県民の命に関わるというのなら、なぜ、東京電力の田代ダムで毎秒4.99tの水を、導水路トンネルで山梨県側の発電所に送り、富士川に放流させるのでしょうか。今では山梨県側に放流する水量は、交渉によって5月から8月の間だけは毎秒3.5tに減らすことになりましたが、それにしても、田代ダムから県外に放出してきた水の量は毎秒4.99tで、JR東海で問題にしている毎秒2tの2.5倍です。地元マスコミも、田代ダムの水については、知っていて報じないのはおかしい」

 桜井県議は、平成30年12月静岡県議会定例会(12月7日)で、田代ダムの水について川勝知事に質問を行った。

 「知事は、JR東海には命の水と言われている大井川の水を一滴たりとも渡さないと言いながら、あの田代ダムから毎秒4.99t(が)東京電力の発電用として山梨県側に流れている。あの水はわれわれの命の水──大井川の水ではないのでしょうか」(カッコ内(が)は筆者補足)

 「その(田代ダムの)水には一切触れようとしない。同じ命の水なんです。JR東海には敵対心丸出し、東京電力には沈黙。これはどういうことでしょうか」

photo 山梨県側に水を放流している田代ダムの航空写真。©Google
photo 田代ダムからの導水路図。©Google

 田代ダムの水に関する質問には、川勝知事も難波喬司副知事も答えずじまい。交通基盤局長だけが、東京電力との交渉によって、大井川への放水量を増やした説明をするにとどまった。

 しかし、川勝知事は、田代ダムから発電のための水が南アルプスに設けられた導水路トンネルを通って毎秒約5tの「静岡県民の命の水」(川勝知事の発言)が山梨県側の田代川第一・第二発電所に送られ、その後に富士川水系の早川に放流されていることをよくよくご存じだった。そのうえで、あえて桜井県議の質問には答えなかったのだ。

 その証拠に、山梨県早川町のWebサイト(平成28(2016年)年8月付け)に、辻一幸町長は次のように記している。

 静岡県の川勝平太知事さんが(平成28年=2016年)7月5・6日、一泊二日で私たちの町早川町を訪れてくれました。川勝知事さんは、昔から早川町には関心を寄せていてくれていたとのことです。

 理由は、(中略)大井川上流の田代川の水は県境を越えて早川の東京電力が発電所発足以来利用していること、そして、今日リニア中央新幹線が南アルプスを早川町から静岡県を通過して長野に繋(つな)がることなど、諸々(もろもろ)の点でこれからの静岡県の県土ずくり(※ママ)を考える中で、早川町の視察を決定されたとのことでした。

 水に関しては、東京電力田代川第二発電所を見学され、大井川上流の水がどのように利用され、早川から富士川に、駿河湾に出るかの理解を示され、リニア工事に関しては、既に始まっている早川の工事現場三か所でJR東海から熱心に説明を受けられました。〉 

 上記のように川勝知事は、毎秒約5tの水が大井川から山梨県側に放流されているのを知りながら、JR東海に対しては、「命とも言える大井川の水を一滴たりとも失うことがあってはならない」「(一滴も水を漏らさないための)技術とその科学的根拠を示せ」と、あまりに偏った態度を取り続けている。

 明らかにダブルスタンダードである。川勝知事はJR東海に対して、なぜ「水1滴」にこだわり続けて、敵視する必要があるのだろうか。

 さらにいえば、静岡県は大井川への放水量が増えたと主張するが、それはリニア中央新幹線の詳細が明らかになる前に、大井川流域市町長と石川知事(当時)が東京電力に対して、「水返せ運動」を行った結果である。リニア中央新幹線の問題が起きた後で、川勝県政が放水量を増やしたわけではない。

photo 早川町のWebサイト、平成28年8月より)
photo 蛇行しながら流れる大井川(島田市川根町)

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