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» 2019年10月08日 05時00分 公開

現地取材で覚えた「違和感」:静岡県知事の「リニア妨害」 県内からも不満噴出の衝撃【後編】 (5/5)

[河崎貴一,ITmedia]
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リニア対応に対する静岡県の回答

 環境の中でもとりわけ水は、私たちが生存し、子孫が健康に生きるためにも大切な問題である。だからといって、人間の手が入らない原始のままの自然を残すことだけが正しいわけではない。人間による適切な管理も必要な場合がある。人間の活動も、自然の一部だからだ。

 静岡県や川勝知事の水と環境を守るという姿勢は間違ってはいない。しかしながら、川勝知事の言動を検証すると、「水と環境」を取引材料にして、「代償措置」として空港新駅をJR東海に造らせようとする“本音”が垣間見える。大井川の「命の水」でリニア中央新幹線のトンネル工事をストップさせるのなら、田代ダムが山梨県で大量に放流する水について対策を講じるべきではないか。

 そこで私は、ITmedia ビジネスオンライン編集部と連名で、静岡県広聴広報課に5項目の質問書を送った。以下、回答の全文を紹介する。

[質問1]2019年8月上旬から国土交通省が静岡県とJR東海の仲介に入りましたが、進展はありましたか?

[回答]8月9日に国土交通省、静岡県、東海旅客鉄道株式会社の3者で合意した「リニア中央新幹線静岡工区の当面の進め方について」に基づき、8月20日、21日に開催した「専門部会委員とJR東海との意見交換会」に国土交通省鉄道局の森環境対策室長が立会いました。

 会議後、森室長から「科学的知見に基づいた議論だった。」との発言がありました。

[質問2]静岡県はリニア中央新幹線で発生した「湧水は全量を大井川水系に戻す」と主張しています。しかし、今回の台風10号のような大雨が続いた場合、「湧水を全量大井川に戻す」と、水害の危険があるのではないでしょうか。

[回答]リニア中央新幹線の予定地下流に位置する畑薙第一ダムのダム設計洪水流量は1700m3/sとされており、大雨が続いた場合においても、リニア中央新幹線トンネルから大井川に戻す湧水による河川への影響は大きくないものと考えます。

 また、専門部会では、JR東海から「洪水時の河川流量とトンネル湧水量は、オーダー(桁)で違いがあり、トンネル湧水を大井川に戻すことが水害につながるものではない」との回答がありました。

[質問3]リニア中央新幹線の工事の影響で、「静岡県民62万人に影響が出る」と静岡県側は主張しています。「62万人」の根拠について教えてください。

[回答]大井川広域水道企業団は、7市(島田市、焼津市、掛川市、藤枝市、御前崎市、菊川市、牧之原市)に水道用水を供給しております。7市の人口が約62万人となります。

 また、大井川広域水道企業団の取水量が最大2.0m3/sであり、当初、JR東海が大井川の河川流量が減少するとした量に相当しております。

photo 静岡県静岡県広聴広報課の回答より

[質問4]JR東海に「最大毎秒2.0m3」の減水を問題にしながら、田代ダムから導水して発電した水を山梨県側に「毎秒4.99m3」もの水を放流することは問題ではないのでしょうか。

[回答]田代ダムでは、昭和3年より取水を開始しており、国土交通省の許可を受けて最大4.99m3/sの取水を行っています。

 発電取水による河川流量の減少について、県は、水利権更新の機会を捉え、ダムからの放流量を設定する取り組みを行っています。

 平成15年2月に国、県、流域市町、発電事業者が参加する「大井川水利流量調整協議会」を設置し、取水に優先して確保すべき河川維持流量について合意し、平成17年度の水利権更新時には、季節に応じて毎秒0.43m3/sから1.49m3/sの水を、大井川へ流すことができました。

 平成27年度には、再度の水利権更新を迎え、協議会で議論を行い、河川維持流量を踏襲することを合意し、平成28年7月に水利権が更新されています。

[質問5]静岡県は、議員やメディア関係者に対して、県議会の場や記者会見場などで「田代ダム関連について質問しないでください」と依頼していますか?

[回答]申し訳ありませんが、事実関係が確認できませんでした。

photo 筆者とITmedia ビジネスオンライン編集部との連名で送った質問書に対する静岡県広聴広報課の回答結果

 リニア中央新幹線の南アルプストンネル(静岡工区)を巡る静岡県とJR東海のトラブルは、田代ダムから静岡県外に毎秒約5tの水が放流されていることだけでも正確に指摘されれば、これほどの大騒動にならずに現実的な対応ができたはずである。

 それなのに、なぜ大手のマスコミは問題提議ができないのか。

 静岡県にしても、議員やメディア関係者に対して、県議会の場や記者会見場などで「田代ダム関連について質問しないでください」と、要請したと伝えられる。その事実があったかどうかの確認(質問5)に対して、今回、「事実関係が確認できませんでした」と、肯定でも否定でもない曖昧な回答だった。事実関係がなければ、なぜ明確に否定できないのか。

 リニア中央新幹線の南アルプストンネル静岡工区を巡る静岡県の川勝知事とJR東海のトラブルは、解消する兆しはない。このままでは、リニア中央新幹線の開業予定が遅れる可能性も出てきた。このような状況は果たして「静岡県民や日本国民の利益」になっているのだろうか?

 冷静な議論を求めたい。

photo 中京圏・関西圏の期待も大きいリニア中央新幹線
photo 近鉄奈良駅前の看板

著者プロフィール

河崎貴一(かわさき たかかず)

サイエンスライター、ジャーナリスト。日本文藝家協会、日本ペンクラブ会員。科学、医学、歴史、ネット、PC、食のルポルタージュを多く執筆。著書に『インターネット犯罪』『日本のすごい食材』(ともに文春新書)、パソコン・ガイドブック『とことん使いこなそう!』シリーズほか多数。


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