#SHIFT

レクサスインターナショナルの澤プレジデントが語る「ブランドにひもづいたデザイン」戦略躍進する高級車ブランド「LEXUS」(2/3 ページ)

» 2019年10月17日 08時00分 公開
[林信行ITmedia]

ブランド価値と結びついたデザインシンキング

 そんなレクサスインターナショナルの澤氏にインタビューする機会を得た。スピンドルグリルの話をすると「あれは時間がかかりましたが、リスクを取りました」と笑う澤氏。

 レクサスが属するトヨタ自動車も含め、自動車メーカーならどこでも「個々の製品のデザインをしっかりやるのは当たり前だが、(LEXUSは)ブランドバリューと結び付く形でデザインを行っているのが、特徴的なところ」だという。

レクサスインターナショナルの澤 良宏プレジデント(トヨタ執行役員)

 この考え方は、親会社であるトヨタ自動車にも最初のうちはなかなか理解されなかったという。「1つ1つの商品を個別に見てしまうと、なぜ、ここがこんな風になっているのか、と見えてしまう部分があるが、後からそうした商品が増えていくことで、それらがつながって見えてくるのがブランド価値と結びついたデザインシンキング」と澤氏は話す。

 確かに、最初にスピンドルグリルが登場したときは、2012年真っ先にこれを採用した「Lexus GS」そのものが批判を受けた。しかし、今の私たちにはこれがLEXUSブランドを象徴する全車種の顔であることが分かる。

 そんな澤氏が、現在、テクノロジーとデザインについてどんな考えを持っているのか。

 「最近では自動運転とか、コネクテッドカーなど、車の世界でもいろいろなテクノロジーが登場しています。ただ、そうした議論では、ついテクノロジーばかりが先行し、ヒューマンというファクターが忘れらてしまう。そんな中で、今、レクサスは外の人たちにはもちろん、社内の人にも向けても、改めてHuman-Centered(人間中心)ということを強くうたっている」(澤氏)

 そう聞くと、19年6月に発表された「Lexus RX」の改良型モデルから採用している世界初のブレードスキャン式アダプティブハイビームシステム(AHS)という技術は、まさにこのことを感じさせる技術の1つといえる。

 光源となる12個のLEDの光をそのまま照射するのではなく、高速回転するブレードミラー経由で照射し、300個のLEDと同等の配光を実現した技術だが、これは単に少ない光源でより広い範囲を照らせるというだけではない。前にいる車や対向車を認識すると、そこがまぶしくならないように、その部分だけ光が当たらないように照らすことができるのだ。

LEXUS流のテクノロジーの見せ方

 実はLEXUSは、この技術を採用するのに先立ち、毎年4月にミラノで開催される世界最大のデザインイベント、「ミラノデザインウィーク」(俗称:ミラノサローネ)で、その予告編ともいえる展示を行っていた(先の澤氏のインタビューもそこで行った)。

 ミラノデザインウィークといえば、19年は世界181カ国から、登録している人だけでも38万人が参加したイベントだ(また、登録しなくても見られる展示が多いため、実際にはこれよりもはるかに多くの人が見ている)。テクノロジー系のイベントであるCESが11万人、IFAが25万人という数と比べても圧倒的に規模が大きいイベントであることが分かるだろう。

 LEXUSがそのミラノデザインウィークで展示をしていたのは、人気の高いトルトーナ地区にあるSuper Studioの入口前大ホール。毎年、一番目立つ展示会場の1つだ。その会場でLEXUSは「LEADING WITH LIGHT」という展示を行っていた。

2019年のミラノデザインウィークで行われたLEXUSの展示

 そこでは自動車そのものの展示が一切行われておらず、全てはLEXUSがキュレーションしたクリエイターらによるインスタレーション作品(コミッションワーク)の展示だった。

 メインの展示は、ライゾマティックスの真鍋大度氏/石橋素氏のチームが手掛けたダンスパフォーマンス。ライゾマティックスはPerfumeのステージ演出や、リオオリンピックの閉会式で行われたフラグハンドオーバーセレモニーでのAR演出にかかわったことでも知られる、日本を代表するデジタル演出集団だ。

 左右の壁から放たれる無数の光の中で、ダンサーの動きをモーションキャプチャーしながら、時にはダンサーを囲むように、そして時にはダンサーの後を追うように動く巨大な4輪自動運転のロボット――前代未聞のダンスパフォーマンスが、開催期間の1週間、しかも朝から夜遅くまで続くミラノデザインウィークで展開するという、かなり大きなチャレンジだったが、おかげでLEXUSのブースは連日長蛇の列が続いていた。

 パフォーマンスの後には、一部の来場者にダンサーが持っていたのと同じボールが配られた。このボールを持って、ダンサーが踊っていたステージに躍り出ると、なんと壁から放たれる光が、そのボールの動きに追随するのだ。

 続いて来場者は真っ暗な部屋に通される。天井から3つのペンダントライト型オブジェがつるされ、そこから放たれた光は、特には交差したり、重なり合ったりする。説明を聞くと、この光はLEDから放たれたものだという。通常、LEDの光は広がっていき壁にぼんやりとした光を落とす。このため、光で断面を描いたりするのには通常、レーザー光線などを使う。ところが、このオブジェでは最新の技術を用いてLEDの光が一方向にしか広がらないように制御されている。しかし、展示ではそうした難しい説明は一切無しに、それをただ体験を通して示していた。

 次の部屋に来て、ようやく技術的な展示があった。先に説明したブレードスキャン式アダプティブハイビームシステム(AHS)の先行デモンストレーションだ。といっても、特に込み入った説明はなく、来場者はただハンディライトを渡されて、ハイビームのようなまぶしい照明の前に立つように指示される。ここでハンディライトを正面に向けると、正面のライトからまぶしい光で照らされているのに、ハンディライトの周囲には影ができ、そのハンディライトを動かしても、きちんとその影が追随する――まさに対向車を認識して、そのドライバーに配慮する人間中心のテクノロジーである。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.