水没した北陸新幹線 「代替不可」の理由と「車両共通化」の真実杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

» 2019年10月18日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 JR東日本は、在来線の電車では「共通化によるコスト削減」を進めている。しかし、新幹線系統は形式が多く、共通化されていない。東北新幹線系統はE5系とE2系、秋田新幹線はE6系、山形新幹線はE3系、上越新幹線はE4系とE2系、そして北陸新幹線はE7系とJR西日本保有のW7系だ。バラエティに富み、趣味的には面白い。

 これに対して、JR東海の東海道新幹線は統一されている。形式のばらつきがあるのは、新旧車両を交代する過渡期だけだ。700系、N700系、N700Aの座席配置は共通で、運用も共通化できる。例えば「のぞみ」で新大阪へ行って、折り返しの「こだま」で東京に戻る、という運用ができる。車両の量産による利点だけではなく、駅の使用効率も上げられるし、ダイヤ作成上の制約も少ない。

北陸新幹線は共通化できない?

 北陸新幹線は上越新幹線や東北新幹線と線路がつながっているから、他の路線で行楽向けの臨時列車の運行を取りやめ、北陸新幹線に回せばいい、と思うかもしれない。しかし前述のように、北陸新幹線車両は特殊仕様だから、失った車両を再度調達するためには、10編成をなんとかして「修理」するか、新規「製造」するか、他の新幹線車両を北陸新幹線向けに「改造」する必要がある。JR東日本は検討中で具体策を公表していないけれども、応急処置としては改造だと思われる。

 JR東日本の新幹線も、もともと車両は共通化されていた。国鉄時代は東北新幹線も上越新幹線も200系電車を運行していた。その後、新在直通の山形新幹線用に400系を投入する。また、繁忙期、短距離通勤通学需要と応用するためE1系というオール2階建て車両を作った。しかしこの電車は標準車両にはならず、実質的にはE2系が標準型となった。秋田新幹線用にはE3系が作られた。このあたりから、新幹線形式の多様化が顕著になった。

200系新幹線は東海道本線用0系東北版。東海道新幹線100系に似た後期形もあった

 E2系は東北新幹線と北陸新幹線向けに製造され、後に上越新幹線にも投入される。ただし、E2系の東北新幹線用と北陸新幹線用は仕様が異なった。標準化されなかった2階建て新幹線も、波動輸送用として次世代のE4系が投入された。その後、E2系を交代させるため、東北新幹線にE5系を投入し、上越新幹線はE4系で統一した。秋田新幹線にはE6系が投入された。

 東北新幹線と北陸(長野)新幹線はE2系が使われていた。東北新幹線は後継機種としてE5系が作られた。しかし、北陸新幹線金沢延長時はE5系ではなく、新形式のE7系(JR西日本はW7系)が作られた。標準化の常識に反する展開だ。なぜか。東北新幹線に求める性能と、北陸新幹線に求める性能が異なるからだ。

北陸(長野)新幹線用のE2系電車。E2系は東北・上越・北陸新幹線で使われたけれども、北陸新幹線のみ仕様が異なった

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