日本国債に“元本割れリスク”? 財務省は「元本割れなし」主張新連載・古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(3/4 ページ)

» 2019年11月01日 07時47分 公開
[古田拓也ITmedia]

そもそも元本保証なんてなかった?

 そもそも元本保証とは、どれだけ運用を続けていても元本が減少しない金融商品だ。その典型的な金融商品は現金といわれている。なぜなら、1000円札は、1000円の価値があり、額面的には目減りしないからだ。

 その対極に存在するのが、不動産や株式だ。これらの金融商品は日夜価格が変動し、買った値段から価格が下落し、損失を被るケースもある。確かに、これでは元本保証であるとはいえない。

 そう考えると、個人向け国債も同様に価格の変動は発生しないため、元本保証であるようにも思われる。

 しかし、この分類はあくまで商品の価格変動というリスクのみに着目しており、そのほかのリスクが加味されていない。個人向け国債のリスクを検討する上で、忘れてはならないのは、信用リスクとインフレリスクだ。

 まずは、信用リスクから検討してみよう。信用リスクとは、取引の相手先が破綻するなどして、当初の約束事が果たされないリスクだ。

 個人向け国債には、額面での買い取り保証や利払いの保証があるものの、それはあくまで国と私たちの約束事にすぎない。つまり筆者が「読者の皆さんから1万円を借りて1年後に1万500円を返します」という約束とほとんど変わりがないのだ。

 しかし、私のような個人との約束よりも、国との約束の方が信頼に足ることは明らかだろう。そこで、個人向け国債は信用リスクで見ても非常に低い金融商品として認識されているのだ。

 一口に国債といっても、国によって信用リスクは異なる。信用リスクが高いトルコの5年国債の利回りはおよそ年率13.42%で、日本の個人向け国債の最低保証利率0.05%と比較して、実に268倍もの利回り格差がある。お金の貸し手の心理を考えると、いくら元本保証といわれても、借り手の信用度合いによって要求する見返りは変動せざるを得ない。国債の利回りは、その国が破綻するリスクの裏返しともいえるのだ。

 結局、元本保証とは発行体が元本の保証を約束していることと、その約束が破られるリスクが低いということを表したに過ぎない。そう考えると、冒頭で取り上げた1000円札も、「国が滅びれば」という仮定をつければ元本保証ではない。

 しかし、常に「国が滅びれば」という仮説をつけてしまうと何もできなくなってしまう。そのため、個人向け国債のリスク表記が媒体によって異なるのは現場による判断ということであろう。

 元本保証型の商品で、むしろ重視しなければならないのはインフレリスクだが、これに関しては財務省でも民間Webページでもあまり取り上げられていない。個人向け国債にはインフレリスクによる「実質的な元本割れ」リスクもあり、注意が必要だ。

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