京都が日本人客から訪日客に“奪われる”!? インバウンドに潜む「オーバーツーリズム」問題京都在住の社会学者が斬る(3/4 ページ)

» 2019年11月01日 06時00分 公開
[中井治郎ITmedia]

減少する京都の日本人宿泊数

 そのカラクリにおいて重要なことは「量」ではなく「質」への着目である。つまり、「どれくらいの人が京都に来ているのか?」ではなく、「どんな人が京都に来ているのか?」という視点だ。

 京都における観光産業の主役だったのはもちろん日本人観光客だった。この日本人観光客が減っているのだ。たとえば、お宿バブルといわれ「部屋が取れない。取れても高くて泊まれない」などといわれてきた近年の京都であるが、じつは日本人宿泊数はここ数年、毎年数%ずつ減少し続けており、とくに主要ホテルの日本人宿泊者数は18年には9.4%も減少したという。

 また19年の7月に発表された「じゃらんリサーチセンター」による18年度の宿泊旅行調査結果では、京都の宿泊者数は全国7位であり、「大人が楽しめるスポットや施設・体験が多かった」では5位と健闘するものの、「地元ならではのおいしい食べ物が多かった」29位、「地元の人のホスピタリティを感じた」18 位など、たとえば8分野のうち4分野で1位を占める沖縄に比べるととても「日本一魅力的な観光都市」などと胸を張れるものではない。さらに前年度に比較しても8分野中6分野で順位を下げているのである。

 近年は日本全体で国内旅行者数が減少傾向にあるとはいえ、これらのデータや調査結果からは、「日本人の京都ばなれ」がひそかに進行しているさまを見て取ることができるかもしれない。

 しかし、すっかり決まり文句となった「若者の〜ばなれ」が往々にして「若者ではない人」の一面的な物事の捉え方を示すものでしかないように、「日本人の京都ばなれ」にも、その言葉に安易に乗っかる前にその背景に目を向けることも重要である。

外国人客と「部屋の奪い合い」に

 たとえば日本人宿泊者数の低下の背景としては、「お宿バブル」を引き起こした宿不足の結果、外国人観光客と日本人観光客のあいだで部屋の奪い合いが起こっていることが指摘されている。気軽な国内旅行として京都を訪れようと思う日本人観光客と、一大イベントである海外旅行として京都を訪れようと思う外国人観光客では、宿を予約するタイミングがちがうのだ。

 つまり「よし、はるばる日本にいくぞ!」という意気込みの外国人たちが旅行の数カ月も前に部屋を押さえてしまうため、「来月の連休、ちょっと京都でも行ってみようか」とふと思い立った日本人が宿を取ろうとホテル予約サイトを開く頃には、ときすでに遅し。希望の日程と適当な予算でプランを検索してもどこも満室。「仕方ない、京都はあきらめるか」と、またちがう観光地の名前で検索し始めることになってしまうのである。

 また日本人にとっての京都の魅力・人気の低下にかんしても、京都市の発表した平成30年度「京都観光総合調査」にその背景をうかがわせる調査結果がある。実際に京都を訪れた日本人観光客への調査で、9割を超える人々が「京都観光に満足した」と答えている一方、「京都観光中に残念なことがあった」と答えた日本人も4割を超え、その多くが「観光客が多すぎて観光を楽しめなかった」「観光客のマナーが悪い」「いつも道路が混んでいる」などオーバーツーリズムに起因すると思われるものなのだ。

 これはつまり満員電車の乗客の悲鳴と同じで、京都がそのキャパシティーを超えた観光客を受け入れていることへの苦情ともいえる。

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