#SHIFT

AIはジャーナリストの仕事を救うのか、奪うのか 「記者ゼロ通信社」の挑戦メディア業界、「悪貨と良貨」の戦い(3/4 ページ)

» 2019年11月13日 08時00分 公開
[服部良祐ITmedia]

「労働集約」で行き詰まるマスコミ

 日本新聞協会によると、12年には約2万人いた新聞社・通信社の記者数は19年には1万8千人を割り込んだ。購読数や広告売り上げの不振で新卒採用数を減らしたり、早期退職を促した会社も少なくない。

 米重社長は「記者の数が減ってもマスコミの仕事量自体は減らず、1人当たりの業務は増えている。一方、マスコミ業界ではこれまで、テクノロジーによる目覚ましい仕事の効率化が行われてこなかった。『労働集約的』でない報道メディアのモデルを作る必要がある」と指摘する。

 そこで、JX通信社がAIで人手を代替できると考えた業務が、マスコミの報道でもウェイトの高い事件や災害などの「ストレートニュース」の把握だ。従来は社会部などの記者が警察や消防などの人間と関係を築いて情報を入手したり、人力で災害現場を探し回ったりするといったアナログな手法が一般的だった。

 SNS上で情報収集を試すマスコミの記者も以前から存在したが、人力での確認作業にはやはり限界がある上、誤情報に気付くのも容易では無かった。SNS情報の収集における「量」と「質」を、AIが代わりに担保することができるという仕組みだ。

 近年台頭しているネットメディアの中には、必ずしもマスコミのように一次情報を取材せず、彼らの報道やSNS情報を転載・引用するだけの「まとめサイト」的な立ち位置の媒体も少なくない。記事が原則無料で、PV(クリック数)に応じて広告を集めるマネタイズの方式がWeb業界で一般的なのが原因だ。

 米重社長もJX通信社の起業について「中学生の時にニュースサイト的なブログを自分で運営していた時、(自分で情報発信する)ネットメディアがいかにもうからないかを痛感したのがきっかけ。新聞の部数が減り、テレビも広告が取れなくなってきた時に『報道』をいかに維持できるか考えた」と打ち明ける。

 ただ、他の多くの職業で「AIが人間の仕事を奪う」という議論がなされているように、ジャーナリズムの重要な仕事の1つである取材業務をAIがより素早く、正確に行えるとしたら、生身の記者の仕事も変わるのだろうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.